無錫ユビキタス

 2011年4月22日、江蘇省無錫市投資促進中心の協力を得て、日本貿易振興機構(ジェトロ)上海事務所の主催による「無錫国家ユビキタス情報センター見学会」が開催されました。本稿は江蘇省無錫市の国家級のハイテク産業開発区への取り組みをご紹介します。

 無錫市は、江蘇省南部に位置し蘇州市に隣接する地級市であり、日本では「無錫旅情」でも有名ですが、その歴史は非常に古く紀元前の前漢時代まで遡ります。無錫は、元来はスズ(錫)を多く産出する「有錫」という名の鉱工業都市でしたが、前漢時代までに掘り尽くしてしまったために、以来「無錫」になったとも言われています。隋時代に建設された大運河が無錫市を通ったことで、農産物や織物を集散し中国各地へ送る重要な経済都市・商業都市として発展しました。現在も江蘇省南部の経済の重要都市となっており、外資の誘致については中国でも有数の実績を持ち、特に日系企業の進出は1,000社を超え3,200人以上が勤務しています。

 現在、無錫市は地方政府の中でも熱心に「モノのインターネット(Internet of things略称IOT)に取り組んでおり、同市産業の柱の一つとして技術開発を支援し、関連産業を育成しようとしています。2009年11月、国務院から「国家ユビキタス(※)創造模範区」の認可を受け、国家ユビキタス情報センターを創設し研究機関や内外の関連企業を誘致しています。「モノのインターネット」は中国政府から戦略的新興産業と位置付けられ、国家戦略として振興が図られています。戦略的新興産業の発展は第12次5カ年計画の中でも主要な目標に掲げられており、具体的には省エネ、環境保護、次世代情報技術、バイオテクノロジー、新エネルギー、新素材、新エネルギー自動車などの産業を飛躍的に発展させるとし、そのための中核企業やモデル拠点の育成、財政優遇政策の運用などを強化するとしています。2009年8月、視察で訪れた温家宝首相は「激しい競争の中で無錫において迅速に中国のセンサーネットワークセンターを建設しよう」と述べ、国を挙げて振興を図ろうとしています。

※ユビキタス:それが何であるかを意識させず(見えず)、しかも「いつでも、どこでも、だれでも」が恩恵を受けることができるインタフェース、環境、技術のこと。

 無錫(太湖)国際科技園管理委員会からの概要説明の中で、現在国家ユビキタス情報センターでは79のプロジェクトが進行中であり、航空安全や知能環境保護技術など様々なテーマが研究され、将来的には製品化して販売していくことを目標としていることが述べられました。また無錫市内にはIOT産業に関わる企業が248社あり、センサー、ソフトウェア情報処理系、ネットワーク通信系、システム構築系、クラウドコンピューティング系など様々な企業が研究を続けているそうです。無錫市としては、今後更に多くの企業や研究機関を誘致し、研究成果の産業化を図っていきたいとのことでした。

 情報センター内にある「国家モノのインターネット応用展覧センター」には様々な研究成果が展示されており、新技術やその応用分野が紹介されていました。例えば、道路交通管理システム、救急医療通信システム、セキュリティシステム、家庭や商業施設でのインターネット応用技術等であり、ユビキタス社会を想像させる展示内容となっていました。具体的には、渋滞・事故・駐車場等の道路交通情報の一元管理、遠隔医療、セキュリティカメラにる顔認証、家庭内における全ての家電の一元操作など「いつでも、どこでも」が可能となる新技術の紹介がされています。中国では想像以上にIT化が進んでいますが、こうした技術が更に実用化されれば、今後5~10年で中国社会は飛躍的に進化するだろうと感じました。無錫市が「無錫旅情」ならぬ「無錫ユビキタス」で有名になる日も近いかもしれません。

国家モノのインターネット応用展覧センター内の 展示スペース

遠隔医療システム

救急車両サポートシステム

道路交通管理システム

ITキッチン

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