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仲裁協議を巡る紛争

一.事実経緯

 原告である中国の機械メーカーと被告である香港貿易会社は飼料加工設備売買契約(以下、「本契約」という)を締結した。本契約で被告は原告に新品の飼料加工設備一式を12万ポンドで販売するとした。また、本契約の第18条において、紛争が生じた場合、ロンドンにおいて英語で仲裁を行い、且つ国際商業会議所の規則を適用すると約定し、第19条において、本契約は中国法を管轄法とすると約定した。

 被告が設備一式を引き渡した後、原告は直ちに据付を行ったが、テストを経て、設備の生産能力が本契約に定める基準に合致していないことが判明したことから、返品を主張した。被告は本契約に返品に関する規定がないことを理由に、原告がこうした権利を有さないと反論した。

 その後、原告は地元の裁判所に提訴し、被告に対し、違約責任を負担するよう請求した。被告は本契約第18条を理由に裁判所の管轄権を否定した。

二.裁判判決

 開廷後、被告は、本契約第18条を理由に裁判所の管轄権を否定したが、裁判所は、本契約第18条のロンドンでの仲裁の記述がその具体的な仲裁機構を特定できないこと、また第19条の中国法による管轄を双方が合意したこと、更に原告側が裁判所に提訴したことに鑑み、「中華人民共和国民事訴訟法」第271条第2項の「当事者は、契約に仲裁条項を設けず、或いは事後書面による仲裁協議に達していない場合、裁判所に起訴できる」に基づいて、原告の請求を認め、被告の主張を退けると判決した。

三.コメント

1.本件は仲裁協議に関わる問題である。仲裁協議とは、当事者は自由意思の原則に従って、双方の間で将来的に発生し得る又は既に発生した紛争を仲裁機構に申し立てて解決する協議を指す。仲裁協議は契約に定める仲裁条項とその他の書面の形で紛争発生前或いは発生後締結した仲裁協議の2種類がある。本件は当事者が事前に合意した仲裁条項を巡って発生した紛争である。

2.本契約における仲裁条項には仲裁委員会若しくは仲裁機構が定められていないため、その内容は不明確と言わざるを得ず、当該仲裁条項が有効であるかどうかについては、より深く検討する必要がある。

 「中華人民共和国仲裁法」第18条に基づき、仲裁協議は仲裁事項或いは仲裁委員会について約定せず、或いは約定が不明確な場合、当事者は、協議を補足することができるが、補足協議が合意に至らない場合、仲裁協議は無効とする。最高裁の「[中華人民共和国仲裁法]適用若干問題に関する解釈」[法釈(2006)7号]第4条に基づき、仲裁協議は仲裁規則のみ合意した場合、仲裁機構については合意していないと見なすべきである。故に、仲裁協議に仲裁機構を約定することが義務付けられているので、約定が不明確な場合は、当事者の一方が提訴後、裁判所は当該仲裁条項を無効とし、訴訟案件として受理することができる。

3.仲裁条項が不明確であるが、当該条項が仲裁を申し立てる意思表示及び仲裁事項の内容を備えている場合、当該条項は有効と認めるべきである。こうした解釈は民法上「補足解釈」と呼ばれており、裁判所は契約条項の無効を回避するために、契約解釈の方法で契約の内容の足を填補する方法である。仲裁条項が仲裁機構に関する内容を備えていない場合、裁判所は補足解釈の方法で仲裁機構を決定することができる。当然ながら、補足解釈は裁判所が当事者の代わりに一方的に決定するのではなく、裁判所は契約を解釈するとともに当事者の意思表示と真意を明確にし、特に誠実信用の原則に従い、取引慣例を考慮した上で合理的な解釈を行わなければならない。

 

※本稿は、当事務所でアドバイザー契約をしている董弁護士の事務所で発行されている記事を一部加筆修正したものです。