茨城県上海事務所 > 中国法律情報 > 小売業者の名誉権が侵害されたか

小売業者の名誉権が侵害されたか

一、事実経緯

 2013年、偽物専業摘発者であるA氏(以下、A氏という)は北京のB百貨店でイタリアのCというブランド婦人服を購入し、その素材がアライグマの毛皮であると表示されているが、国家皮革品質監測検査センターの鑑定を経て、その素材がタヌキの毛皮であると分かった。

 A氏は、ウェブサイトの運営者であるD有限公司(以下、Dという)の取材に応じて、当該婦人服が偽物であり、北京のB百貨店が監督失職で商業詐欺に当たり、EとF(以下、原告らという)がCというブランドの偽物を販売したと主張した。

 原告らは、本件に関わる婦人服のラベルに、タヌキの毛皮をアライグマの毛皮と間違ったのは中国語ラベルの表示錯誤であり、偽物販売や詐欺の行為が存在せず、A氏及びD社の言論が名誉権の侵害に当たると海淀区裁判所に提訴した。

 

二、判決

 裁判所は、審理を経て、次のように判決した。A氏は一般の消費者とは言えないが、実際に、小売価格で婦人服を購入した者である。A氏がクレームを付けたり、メディアを利用して売主に圧力をかけるのは自分の経済的利益のためであるが、今の中国において偽物が氾濫し、詐欺を蒙った消費者が少なくない状況に鑑み、A氏の言論に対しては呵責すべきではなく、一概に単なる営利の言論であるとは言いがたい。裁判所は言論の趣旨や目的などを考慮した上、基本的な事実であるか否か、悪意で中傷することがあったか否かなどを基準に権利侵害の有無を判断しなければならない。

 本件において、婦人服ラベルに表示されている素材が間違っていたという基本事実は存在しているが、「詐欺」或いは「表示錯誤」を構成するか否かについては意見が分かれている。客観的に言えば、「表示錯誤」が詐欺に当たるか否かは意見が分かれるが、中国語ラベルにタヌキの毛皮をアライグマの毛皮と間違ったことを「詐欺」や「本物を偽物とすり替える」と主観的に確信することは排除してはならない。

 A氏が公表した事実に関する真実な考え方、正直なクレームに対して、その身分の特殊性のみを理由に悪意及び権利侵害に当たると認定してはならない。A氏は原告及び百貨店が通知に定める期限や条件の通りに和解の合意に達していなかった状況の下、関連言論を公表するのは悪意で中傷するとは言えず、自分の真実な考え方を表すものである。

 裁判所は、A氏の「詐欺」、「本物を偽物とすり替える」という言論が悪意で中傷することであるかどうかを認定する際に、一般の消費者の中国語ラベルの表示錯誤に対する判断力や認識程度を考慮しなければならず、法律専門家と同様の法律知識や判断力を具備することを要求してはならない。A氏が取材において公表した言論はまだ中傷程度に達していないので、商品の品質に対する合理的なクレームであり、名誉権侵害に当たらないものであると原告らの全ての訴訟請求を棄却した。


三、コメント 

1、本案の原告らは経営者として婦人服の素材成分の表示錯誤によって「詐欺」、「本物を偽物とすり替える」というマイナスな評価を受け、且つ当該評価が法律上争われているものの、こうした中国語ラベルの表示錯誤によって一部の消費者に誤認又は非難をもたらす恐れがあり、権利侵害を構成するまでに至らないクレームや監視に対しては一定の容認度が義務付けられており、且つかかる商品の表示錯誤を削除する必要がある。

2、2014年3月15日より施行された修正版の「消費者権益保護法」の第五十五条により、経営者は、商品またはサービスを提供し詐欺行為に当たる場合、消費者の購入した商品代金または受けたサービスの費用の3倍を賠償しなければならない。故に、A氏は原告らへの賠償を請求することができる。

 

※本稿は、当事務所でアドバイザー契約をしている董弁護士の事務所で発行されている記事を一部加筆修正したものです。