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2012年中国政府活動報告および2012年上海市人民政府活動報告

 2012年3月5日、第11期全国人民代表大会(全人代)第5回会議において、温家宝総理が政府活動報告を行いました。また、それに先立ち1月11日、上海市第13期人民代表大会第5回会議において、韓正市長が政府活動報告を行いました。それぞれ2011年を振り返るとともに、政府の2012年の社会・経済の発展目標が示されました。本稿は、それらをご紹介します。

2012年中国政府活動報告

2011年政府活動についての回顧

 複雑でめまぐるしく変化する国際政治経済情勢と国内の改革・発展の重い任務を前にして、大きな成果を勝ち取ったと回顧し、主に以下のような成果を述べました。

 ・マクロコントロールを強化、改善して物価の急騰を抑制し経済の安定した発展を実現 した。不動産市場に対する規制を強化し、効果が現れた。

・経済発展パターンの転換を速めて、調和の取れた発展の度合と産業の競争力を高めた。 戦略的新興産業の育成に力を入れ、新エネルギーや新素材、バイオ医薬品、先端装置 製造、新エネルギー自動車の発展が加速した。

・積極的な雇用政策、所得分配関係の調整、社会保障システムの整備など民生の保障・ 改善に積極的に取り組んだ。

・改革開放をより推し進めて、経済社会の発展に新たな原動力と活力を注ぎ込んだ。

 しかし、一方で経済運営において多くの新しい状況や問題が生じ、政府活動の中でも欠点や不備があったことを指摘しています。すなわち、経済成長の下振れ圧力、物価水準の高止まり、重要な局面を迎える不動産市場、雇用関係にある構造的矛盾、小企業・零細企業の経営難、省エネ・排出削減や物価規制目標の未達、生産・食品・医薬品の安全問題、所得分配に見られる矛盾と大衆の不満などです。

2012年の主要任務

 2012年の主要任務に先立ち、2012年の全般的活動計画の中で経済・社会発展の主要目標を示しています。①GDPの成長率を7.5%とする。②都市部新規就業者数は900万人以上とし、都市部の登録失業区率を4.6%以内に抑える。③消費者物価指数(CPI)の上昇率を4%前後に抑制する。④輸出入総額の伸び率は10%前後とする。経済成長率と同じペースで都市・農村住民の実質所得・純収入の増加をはかる。また、GDP成長率の目標をやや下方修正したことについては重点的に説明しなければならないとし、「第12次5カ年計画の目標に逐次リンクさせるとともに、各方面が経済発展パターン転換の加速や経済発展の質とパフォーマンスの確実な向上に力点を置くよう導いて、より長期にわたって一層高水準でより良質な発展につなげていこうとしているからである」と述べています。2011年のGDP成長率は9.2%ですから、かなり抑えた目標ですが、長期にわたる良質な発展を追求していく意向の表れと言えるでしょう。

 さて、2012年の主要任務については、主に以下の内容を述べています。

 ・経済の安定した、より速い発展を促すこと。内需とくに消費需要を拡大することは今年 度の活動の重点目標でもある。

・物価総水準の基本的安定を保つこと。

・農業の安定した発展と農民の持続的な収入増を促すこと。

・経済発展パターンの転換を速めること。戦略的な新興産業(先端装置の製造や省エネ・ 環境保護、バイオ医薬品、新エネルギー自動車、新素材など)の健全な発展を推し進め る。

 ・民生を確実に保障し、改善すること。社会保障システムの整備を速める。

・政府機能、税財政改革、土地・戸籍・公共サービスなどの制度改革、社会的事業や所得 分配の改革など、重点分野の改革をいっそう推し進めること。

 概ね第12次5カ年計画に沿った内容になっているのが読み取れますが、注目される点は、内需拡大、物価水準の安定、戦略的新興産業の推進、社会保障システムの整備です。こうした質を重視した安定成長を目指し内需拡大と戦略的振興産業に重点を置くという活動計画は、中国国内でのビジネスチャンスが拡大する可能性が十分あると言えるでしょう。一方で、社会保障システムの整備などは企業にとっての人件費負担増加という面でデメリットにもなることが懸念されます。

 2012年上海市人民政府活動報告

2011年活動についての回顧

 2011年は第12次5カ年計画の幕開けの年であり、また改革に向けたイノベーションの年であったとし、複雑で変化の多い外部経済環境ではあったものの、中央の指導のもと2011年の各目標を成し遂げたと回顧し、やや抽象的ですが主に以下のような成果を述べました。

・経済は緩やかに成長し、品質と利益を更に高めた。

・国際金融、運輸と貿易センター機能の建設において新たな進展を得た。

・産業構造と分布構造を最適化する調整を更に加速させた。

・民生の保障と改善に持続的に取り組んだ。

・都市の管理と建設で新しい一歩を踏み出した。

・郊外農村の改革と発展が推進した。

 2012年の主要任務

 2012年の主要任務に先立ち、2012年の全般的活動計画の中で経済・社会発展の主要目標を示しています。①GDPの成長率を8%程度とする。②地方財政収入を8%伸ばす。③都市部の登録失業区率を4.5%以内に抑える。④経済成長率と同じペースで都市・農村住民の実質所得・純収入の増加をはかる。⑤消費者物価指数(CPI)の上昇率を国の目標と同程度に抑える。⑥社会研究開発費および環境関連への投資額をそれぞれGDPの3%程度とする。

 そして、2012年の主要任務として10方面からなる活動が示されましたが、以下主なものを紹介します。

・「4つのセンター(国際経済、金融、貿易、港運)」の建設を進め、産業構造のアップグ レードを加速する。

・都市のイノベーション能力を高める。  ・民生の保障と改善をする。市民が安心して楽しく暮らせることを確保する。

・都市の科学的な管理レベルを高める。

・都市と農村の一体的な発展を推進する。

 こちらも概ね上海市国民経済と社会発展第12次5カ年計画に沿った内容になっていますが、特に上海においては2020年までの国際的に相応しい経済資源と地位を有する「4つのセンター」の構築の推進が第一に掲げられているのが特徴です。上海市工商局によると、2011年の新規設立企業数は、前年比7.3%増の13万4,400社、このうち第3次産業に従事する企業数は8.5%増の11万8,500社で全体の88.2%を占めたと報じています。また、新規設立の外資企業数は8.4%増の6,999社、このうち卸売・小売業・賃貸・ビジネスサービス業が全体の75.7%を占めています(因みに日系は619社あり国・地域別では香港に次いで2番目に多かったとのことです)。このように、4つのセンターを推進する上海市では金融や文化などのサービス業の成長が加速しており、2012年上海市の主要任務と照らし合わせてみると、今後上海でのビジネスチャンスの方向性が掴めるかもしれません。

出所:新華社、中華人民共和国中央人民政府ホームページ等