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分公司(支社)は総公司(本社)の特殊労働時間制を適用すべきか

一、事実経緯

・2004年12月18日、A氏は北京海産物販売公司の上海分公司(以下、上海分公司という)に入社し、倉庫係を担当した。

・2006年3月1日及び2007年3月1日、A氏は上海分公司とそれぞれ1年間を期限とする労働契約を結んだ。

・2007年9月4日、北京市労働・社会保障局は、北京海産物販売公司に対して高級管理職、トラック運転手、倉庫運搬員への不定時労働時間制※を実施することを許可する通知書を発行した。

・2008年2月27日、上海分公司の人事担当者はA氏に対して口頭で労働契約の期限満了をもって労働契約を更新しないと通知した。翌日、上海分公司は、A氏宛に「貴方と当社との労働契約は2008年2月29日で期限は満了し、労働契約は更新しない」という1枚の通知書を発送した。A氏は終に上海分公司を離職した。

・2008年3月28日、A氏は労働争議仲裁委員会に仲裁を申し入れ、上海分公司に対し2004年12月から2008年2月までの残業代80,420.13元及び25%の経済補償金20,105.03元を支払うよう求めた。

※不定時労働時間制とは、日本の裁量労働制と類似の制度で、1日の労働時間(特に出勤・退勤時間)を固定しない労働時間制である。

 

二、裁決の旨

 労働争議仲裁委員会は、上海分公司がA氏に対して2006年3月から2007年8月までの休日残業代の差額9,469.54元を支払うよう裁決した。A氏及び上海分公司は共にその裁決を不服とし、裁判所に提訴した。

 

三、判決の旨

 一審裁判所は、審理した結果、双方の労働時間制度に関する陳述から、A氏が上海分公司での勤務期間中、休日残業の状況が存在していることを確認できたため、上海分公司は法に基づき相応しい残業代を支払うべきであるとした。2007年9月前の残業代は既に仲裁時効を超えているという上海分公司の抗弁意見に対して、双方の争議が生じた日は労働関係の終結日であるため、A氏が2008年3月28日に仲裁を申し入れたことは仲裁申入期限を過ぎていなかったと認めた。

 2009年4月2日、一審裁判所は、上海分公司はA氏に対して2004年12月から2008年2月までの期間における残業代差額15,707.16元及び25%の経済補償金3,926.79元を支払うよう判決を下した。

 双方は共に一審判決を不服とし上訴したが、2009年6月29日、二審裁判所は上訴を退け一審判決を維持すると判決した。

 

四、コメント

1.本案は特殊労働時間制の申請及び執行に関する判例である。本案の焦点は、北京海産物公司の不定時労働時間制が上海分公司に適用されるかどうかによって、A氏が休日残業代を取得することが可能かどうか決まることである。

2.特殊労働時間制の申請は、属地管理の原則に基づいて、総公司であろうが分公司であろうかを問わず、一律してその工商登録所在地の労働行政部門に申請しなければならない。

3.上海市の場合、上海市人力資源・社会保障局の「上海市企業不定時工作制と総合計算工時工作制の審査弁法」の公布に関する通知「滬労保福発(2006)40号」の第4条の規定により、企業は不定時工作制と総合計算工時工作制を実行する場合、企業所在工商登記登録地の区県人力資源・社会保障局に申請しなければならない。但し、企業は年を単位とする総合計算労働時間制(同時に不定時労働時間制実行の申請を含む)を実行する場合、人力資源・社会保障局(以下、労働保障行政部門と通称する。)に申請しなければならない。

4.本案では、北京海産物販売公司は地元労働行政部門に不定時労働時間制を申請し、許可されたからと言っても、上海分公司は当然そのまま北京総公司のその許可に従って不定時労働時間制を実行することはできない。上海分公司が不定時労働時間制を実施する場合、法定手順に基づきその上海の工商登録地の労働行政部門に不定時労働時間制を申請しなければならない。上海分公司は、該当申請をしていなかったため、不定時労働時間制を適用できず、A氏が休日残業をした場合、法定基準で残業代を支払わなければならない。

 

※本稿は、当事務所でアドバイザー契約をしている董弁護士の事務所で発行されている記事です