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歩合給は給与であるか

一、事実経緯

 2008年4月、A氏はB社に入社し、B社と基本月給1,500元プラス歩合給などを内容とする労働契約を締結した。

 2009年5月、A氏はB社に辞職願を提出し、B社と業績に応じた歩合給に関する取決書を交わした。その趣旨としては(1)A氏の6項目の歩合給の合計は39,937元とする。(2)B社は他社からの契約代金入金後6ヶ月以内にA氏の歩合給を精算することとし、具体的には、契約代金入金後2ヶ月以内に25%、4ヵ月以内に35%、6ヶ月以内に40%を支払うこととした。

 B社はA氏に歩合給の25%に相当する9,984.25元を支払った後、契約代金の未入金を主な理由として残りの歩合給を支払っていない。B社がA氏の催促に応じなかったため、A氏はB社を仲裁に訴え、歩合給の支払を求めた。

 

二、  仲裁裁決

 仲裁委員会は受理後、審理中如何に本案を裁決すべきか意見が分かれた。

1、反対側意見

(1)A氏とB社との取決書にB社は他社の契約代金入金後の6ヶ月内にA氏の歩合給を精算すると決めており、B社がA氏に歩合給9,984.25元を支払った事実は取決書に決めている代金を受取ったと認定すべきものとして、残りの歩合給を支払わなければならない。

(2)A氏は、B社勤務中、B社とA氏が働いた後取得する業績給与について取り決めている歩合給は給与報酬に属し、支払うべきである。

(3)契約代金が入金されたかどうかの挙証責任はA氏ではなくB社にあるので、B社が挙証できなければ、A氏に歩合給を支払う責任を負うべきである。

2、賛成側意見

(1)B社はA氏と約束した月給1,500元を支払っており、給与減または遅延行為は存在していない。

(2)歩合給は広義上の給与範疇に属するが、給与と異なる側面を有している。当事者間に支払基準、方式、時間などの特約があり、且つ、代金回収を前提条件としており、A氏の代金未回収は仕事、また職責を果たしていないと証明し、歩合給を支払ってはならない。

(3)代金回収はA氏が果たすべき職責及び責任である。A氏は回収済かどうかを挙証すべき立場にあり、それができなければ挙証不能の法律結果を負うものとする。

 

仲裁委員会は最終的に合議を経て、上記2の賛成側の意見を採用し、裁決した。

 

三、  コメント

1、最高裁の「民事訴訟証拠に関する若干規定」では、使用者による労働報酬の減少によって発生した労働争議に対しては使用者は労働報酬を減少する状況を含め挙証責任を負うと決めている。本案の焦点は使用者による労働者の給与減少ではなく、歩合給を支払うべきかどうかの問題であり、本案では採用されない。

2、A氏が取決書にある代金回収済を実証できず、双方の約束している歩合給精算の条件を成していないのが本案裁決の拠り所である。

3、本案の事例では、B社はA氏と交わした労働契約で歩合給について詳細に特約しており、紛争の際、案件を有利な方向へ導いているのは注目点であろう。

※本稿は、当事務所でアドバイザー契約をしている董弁護士の事務所で発行されている記事を一部加筆修正したものです。