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個人所得税法の改正について

基礎控除の引き上げ

今回の改正の最大のポイントは、従来毎月2,000元だった賃金・給与所得者の基礎控除が3,500元に引き上げられたことです。現行の基礎控除額は2008年より施行されていますが、消費者物価指数(CPI)の上昇が数カ月連続して5%を超え、また多くの地域で賃上げ基準が年間10%以上に設定されている現状にそぐわず、基礎控除額も引き上げるべきとの声が高まっていました。今年4月に公表された1次草案では3,000元に引き上げるとされましたが、それに対して5月末までに22万件の意見が寄せられ、その大半が3,000元では引き上げが足りない、とするものだったそうです。

 最終的に3,500元で決着がつきましたが、これについて財政部幹部は、「基礎控除の引き上げは、物価上昇などにより生活コストが上昇していることに対する手当であり、この引き上げにより、給与所得者の納税対象者は現在の約8,400万人から2,400万人となり、約6,000万人が個人所得税を納める必要がなくなる」と述べています。中国の税収総額に占める個人所得税の割合はわずか6%強であり、大半は増値税と企業所得税だそうですから、これも中国だからなせる業でしょうか。

 なお、外国人の基礎控除額(現行4,800元)については改正内容に盛り込まれていません。

税率表の変更

 改正のもう一つの大きなポイントは、現行9等級の累進税率を7等級に縮小するというものです。最低税率をこれまでの5%から3%とし、現行9段階としている税率区分のうち、15%と40%の区分をなくして7段階としています。各税率の課税所得額の範囲も変更され中低所得者の税負担が軽減されるように改正されています。

 一方で、課税所得が39,000元以上(千元単位)からは税負担の増加となり、高額所得者への課税強化の動きがみられます。こうした中低所得者の税負担軽減については、今年3月に開催された全人代で温家宝首相が行った政府活動報告の2011年の重点政策の中で、はっきりと謳われていました。すなわち、「個人所得税のサラリーマン給与所得の控除基準を引き上げ、税率構造を合理的に調整し、中低所得者の税負担を適切に軽減する」とあり、市民生活の保障と改善を掲げていました。果たして計画通りに個人所得税法が改正されたと言えます。

新税法 旧税法
課税所得(元) 税率
(%)
速算控除額 課税所得(元) 税率
(%)
速算控除額
1,500以下 3 0 1 500以下 5 0
2 1,500超~4,500 10 105 2 500超~2,000 10 25
3 4,500超~9,000 20 555 3 2,000超~5,000 15 125
4 9,000超~35,000 25 1,005 4 5,000超~20,000 20 375
5 35,000超~55,000 30 2,755 5 20,000超~40,000 25 1,375
6 55,000超~80,000 35 5,505 6 40,000超~60,000 30 3,375
7 80,000超 45 13,505 7 60,000超~80,000 35 6,375
8 80,000超~10,000 40 10,375
9 10,000超 45 15,375

 

 申告納税期限の変更

 現在は翌月7日までとされている源泉徴収義務者および納税者の申告納税期限が、翌月15日までとなりました。他の税目である企業所得税、増値税、営業税などの通常の納税申告期限が翌月15日となっていることに合わせたものです。

 中国政府は、第12次5カ年計画の重要政策の一つである「人民の生活の全面的改善」を実施していくために、税制体制の改革、社会保険体制の構築、賃金水準のガイドライン構築など、様々な対策を講じてきています。人民の生活面では一定の改善ではあるものの、企業にとっては負担増加となるため、今後収益を確保していく上での課題となりそうです。

参考:人民日報、新華網、NNA等