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移転価額税制に要注意

 

1、案件経緯

 2013年7月N市国税局の税務担当は、同市にある日中合弁電子製品生産企業(以下、「A社」という。)の資料を審査中、A社の売上規模が連年増、特に2009年の新規プロジェクト操業後、年間販売額の2.7億人民元から10億人民元まで急伸した。一方A社の収益力が低く、その設立から経営業績の不振が長らく続き、経営の実際状況に合致せず、また、2009年から2013年までのA社と関連企業側との取引額は全体の99.7%を占めているため、脱税の疑いがあるとした。

 N市国税局は、A社の同期資料の合法性を審査し、財務データ及び第三者の情報等と比較し、税金を逃れたり、利益を移送したりしたか否かを検証した。

 税務員はA社の大量のデータ情報を比較、照合し、その海外関連取引の利益率はわずか1.76%に過ぎず、N市電子部品業界平均の5.89%を明らかに下回っていた。よって、N市国税局は、A社の全体業績の不振は関連取引と直接的な因果関係があると認定し、A社に対する脱税立案調査を上申した。同年10月国家税務総局は2009年から2013年までのA社関連取引状況に関して移転価格税制の正式な立案調査を許可した。特別査察チームの調査によってA社の関連取引金額は、46.4億人民元に達したと認定した。

 

2、適用法律

(1)国家税務総局が配布した「特別納税調整実施弁法(試行)」(国税発(2009)2号)は、如何に特別納税を調整し、特に移転価格の調整と調整方面(方法)について具体的に取決めている。

(2)Base Erosion and Profit Shifting(BEPS)関連行動計画の重要な措置の一つとして、国家税務総局は2016年6月29日「2016年第42号公告」を配布し、「国税発(2009年)2号」通達に関連する申告、同期資料管理及び国別報告等の関連規則について改訂、補足した。

 

3、移転価格税制の調査対象

 実務上、A社のケースのように、税務機関は「国税発(2009)2号」通達の要求に従って移転価格税制の調査対象として、下記の状況のいずれかに該当する企業を選定する。

(1)関連取引の金額が大きく、または類型の多い企業

(2)長期にわたって欠損、薄利または利益が急伸している企業

(3)同業界の利益水準を下回る企業

(4)利益水準とその負担する機能リスクと明らかに整合性の取れない企業

(5)租税回避地の関連企業側と業務を行う企業

(6)規定通り関連の申告をせず、または同期資料を準備しない企業

(7)その他独立取引の原則に明らかに違反する企業

 

4、コメント

(1)税務機関は、「2016年第42号公告」の実施によって、企業間の関連取引状況を全面的に掌握し、多国籍グループの傘下企業の利益帰属地と価値の創出地と合致するかどうかを評価することができるようになった。多国籍企業は、「2016年第42号公告」の自社の関連取引と移転価格設定政策への影響を研究、評価し、潜在的な移転価格税制調査と調整リスクを回避するよう有効的な措置を取る。

(2)企業は現行の関連契約条件、取引構造及び移転価額決定を再確認し、必要に応じて見直し、地域性の特別な要素等の影響も考慮すべき。

(3)全体のバリューチェーン(価値連鎖)における中国企業の役割、及び位置付けのほか、簡単な機能リスクの生産者、商社、サービス提供者であるか否か、剰余価値の配分に関わるか否か、欠損が適正なのか否か、または最低収益率が適正であるか否かを確かめる。

(4)税務機関は企業所得税年度申告、納税評価、同期資料などのデータに基づいて移転価格税制案件を選定するので、企業も関連取引の同期資料、金額の大きい対外支払及び持分譲渡など情報を含め、慎重かつ真実を開示しなければならない。

以 上

 

 ※本稿は、当事務所でアドバイザー契約をしている董弁護士の事務所で発行されている記事を一部加筆修正したものです。