茨城県上海事務所 > 中国法律情報 > 「Honeywell」登録商標偽造事件

「Honeywell」登録商標偽造事件

一、事件事実

 2018年5月から7月にかけて、汪氏は上海拓斛実業発展有限公司(以下、「拓斛会社」という)を経営している間に、社員の余氏にハネウェル国際会社の登録商標を偽った包装袋を注文させ、黄氏の経営する上海恵安国際物流有限公司(以下、「恵安会社」という)の倉庫をレンタルし、登録商標権利者であるハネウェル国際会社の許可と授権を受けず、黄氏の会社に、ノーブランドの大容量包装工業用ワックスを「Honeywell」「A-C」の登録商標のマークが印刷された工業用ワックス(1袋25キロ)に小分けして、上海、江蘇、広東などの多くの会社に販売し、100万元以上の販売収入を得た。

 2018年8月13日に上海市公安局宝山分局は、ハネウェル国際会社の通報を受けた後、8月17日に上海市品質技術監督局と拓斛会社に執法検査を行い、恵安会社の倉庫内に拓斛会社が保管している商品価値11万元余りの「ハネウェル」工業用ワックス464袋(1袋25キロ)、「ハネウェル」工業用ワックス原料27袋(1袋25キロ)を発見し、行政執法機関は即時に差押のうえ、公安機関に移送し、公安機関は当日汪容疑者に対し、登録商標偽造商品を販売した疑いのある商品罪として立件捜査し、9月14日に宝山区人民検察院に逮捕の承認を申し入れた。

 

二、判決

 拘束期間中、検察院は汪容疑者を逮捕すべきかどうか公聴会を開いて、弁護士は汪容疑者の逮捕は企業経営に影響を与えると述べた。捜査員は汪容疑者の拘束後の供述が事実に合わないため、その他の犯罪事実を引き続き調査すべきと強調した。検察官は審査後、汪氏に対して保釈なら、証人証言の妨害や共謀などの社会的危険性を引き起こした可能性があるとして逮捕する必要がある。また、汪氏はハネウェルが有する登録商標で偽った工業用ワックスを販売するだけでなく、上記の工業用ワックスを小分けにして偽造登録商標が印刷された包装に変更したため、公安機関は事実認定が不適当として、9月21日に登録商標偽造罪として汪容疑者に対して逮捕を決定した。さらに、捜査員に対して継続的に捜査して証拠を求める意見書を発送し、引き続き調査する必要がある事項、目的と要求を列記して、捜査方向を調整し、裁判基準で証拠の確定を完備するよう提案した。また、検察官は、余氏は汪容疑者のためにハネウェルの登録商標を偽った包装袋を購入して、工業用ワックスを包装、外販することを補助したことや、黄氏は汪容疑者が登録商標偽造を実施したことを明らかに知っているにもかかわらず、倉庫を汪容疑者にその関連商品の積上げ用にレンタルし、従業員に工業用ワックスの小分けサービスを手配したことに関していずれも共犯者として処罰すべきであり、捜査員に直ちに同案容疑者の余氏、黄氏を逮捕するよう「容疑者を逮捕すべき提案書」を発送した。

 12月20日、宝山公安分局は汪、黄、余容疑者が偽造登録商標罪にかかわる事件を検察院に移送した。審査起訴の過程で、検察官は捜査員が行政執行機関から移送された工業用ワックスを受け取った後、事件に関わるものだけを調べ、写真やビデオなどの記録方式を通じて固まらず、証拠確定の不規則の状況が存在していることを発見し、公安機関に改正するよう「検察建議書」を発送した。公安機関は遂に調査を行い、改善措置を実施し、関連公安全体に通報した。

 2019年5月から7月まで、宝山区人民検察院は被告人汪、黄、余を偽造登録商標罪で宝山区人民裁判所に提訴した。審理の過程で、検察官は、恵安会社の倉庫賃貸は会社による全体的意志の支配下で会社の利益を図る行為であるため、会社の犯罪として論ずべきとして、犯罪にかかわる恵安会社に対して直ちに追加起訴することを求めた。

 10月31日、上海市楊浦区人民裁判所は、上級裁判所より本案の審理を確定させ、偽造登録商標罪で被告人汪に有期懲役3年3ヶ月、罰金10万元、恵安会社に罰金2万元、被告人黄に有期懲役1年6ヶ月、罰金8千元、被告人余に有期懲役1年3ヶ月、罰金5千元を科する判決を言い渡した。

 

三、注目点

1、本案は、最高検によって「2019年度検察機関知的財産権保護」の典型事例(18件)の一つとして公表された。中国の審判は判例法に準拠しないが、本件の審理を通じて、検察機関は内外資系企業を問わず、その訴訟地位、訴訟権利、法律の保護を平等に守り、逮捕批准から、起訴、逮捕追加、追訴、検察提案までの各法律監督機能を履行し、知的財産権を保護するため正当に職権を行使し、同種の事件の処理に対し、モデルケースとして示すものとする。

2、検察機関は、誤認逮捕を防止し、当事者の訴訟権利を十分に保護しながら、検察業務の公開を深化させるために捜査・逮捕の公聴を行い、事件処理のプロセスを公開し、捜査・逮捕の閉鎖性から公開性への転換を図り、犯罪容疑者と弁護人の審理プロセス関与度を明らかに向上させ、刑事訴訟プロセスの透明性を高め、司法の公平と正義を国民に実感させた。

 

重要法規解説

 

「知的財産権の司法保護を全面的に強化することに関する最高裁の意見」

 

 2020年4月15日に、最高裁は「知的財産権の司法保護を全面的に強化することに関する意見」(以下、「意見」という)を公布し、法に基づき、知的財産権を厳格、平等、正確、効率、持続、全面的に保護することを強調した。

 「意見」の要点を下記の通り取りまとめしてみます。

 

一、背景

 2019年1月1日に設置された中国の最高裁知的財産権審判廷、知的財産権法廷をはじめ、32の高裁、3つの知的財産権専門裁判所、及び一部の中級、地裁は、知的財産権審判の構造を形成し、2019年、全国で各種の知的財産権案件481,793件を受理し、475,853件(過年度を含む)を結審し、前年比44.16%と48.87%それぞれ増加となった。その内、最高裁知的財産権裁判所は特許等の技術案件1,945件を受理し、第二審事件の審理期間は平均73日間で、過去より大幅に短縮された。統計によると、知的財産権侵害事件のうち、権利者の勝訴率は61.2%に達し、裁判の質の一定の改善を見せた。ただし、知的財産権の保護に「立証難、処理期間の長期化、賠償額の少なさ、コスト高」などの難題が依然として存在し、さらに中米経済貿易第一段階協議で言及された商業秘密保護、知的財産権判決の執行と臨時禁止令などの知的財産権のホットな問題に直面しており、これらの難題に対応して、司法制度を改善し、知的財産権に対する司法保護を全面的に強化するために「意見」の配布、実施を通じて国内外にPRする狙いがあるが、その更なる進展成果をどこまで示されるか目が離せない。

 

二、「意見」の注目点

1、法による保護を強調し、法治の理念の下で、各種知的財産権審判の機能を十分に発揮、知的財産権法律の適用基準を明確にし、知的財産権権利者と訴訟参加者の合法的権益を確実に保護する。

2、厳格な保護を強調して、知的財産権の価値を十分に実現することを導き、イノベーションを激励することを出発点として法律を厳格に執行し、知的財産権司法保護の対象性と有効性を確実に向上させる。

3、平等保護を強調し、異なる所有制経済主体と異なる国別当事者との間の知的財産権の合法的権益、ならびに知的財産権訴訟における平等なプロセス権利と実体権利を確実に保障する。

4、精確な保護を強調し、異なるタイプの知的財産権の保護ニーズと特徴によって、相応の知的財産権の種類と分野別を施策し、保護方式、手段、基準と知的財産権の特質、需要を適応させる。

5、効率的保護を強調し、特許、商標と民事、行政手続との結合を実現し、権利者の立証負担を確実に軽減し、司法保護臨時措置を有効に運用し、知的財産権事件の審判効率を確実に向上させる。

6、長期有効な保護を強調し、知的財産権事件の控訴メカニズムと技術的事実究明メカニズムを完備させ、司法裁判における典型的な判例の指針的役割を十分に発揮し、裁判規則の統一を促進する。 

 知的財産権審判「三合一」(注:「三合一」とは前世紀90年代に上海浦東裁判所は全国に先駆け、その管轄区内における知的財産権にかかわる民事、行政と刑事事件を統一審理するために新設した裁判モデルを指すこと)に適応した管轄制度メカニズムを確立し、専門裁判所などの裁判体系の近代化を推進し、裁判官の裁判能力を高める。

7、全面的な保護を強調し、知的成果の創造から運用までの全過程を巡り、案件の立案から執行までの流れに知的財産権の司法保護を全面的に強化する。

 

主要法令

法  律  名  称

施行日

1

最高裁の「知的財産権の司法保護を全面的に強化することに関する意見」(『重要法規解説』をご参照下さい)

2020/04/15

2

最高裁の「法による破産事件効率審理の推進に関する意見」

2020/04/15

3

財政部、国家税務総局の「小規模納税者増値税減免政策執行期間の延長に関する公告」

2020/04/30

4

国家インターネット情報弁公室、国家発展改革委員会、工業と情報化部などの「インターネット安全審査弁法」

2020/06/01

5

全人大常務委員会の「中華人民共和国固体廃棄物汚染環境防止法」

2020/09/01