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デッドロック状態に陥った会社を解散できるか

一、事実経緯

 2002年1月、林氏と張氏は持分折半出資により、凱旋実業会社(以下、A社という)を設立した。張氏は法定代表人及び執行董事に就任し、林氏は総経理及び監事に就任した。

 A社の定款では、(1)株主会の決議は二分の一以上の議決権を有する株主の可決が必要である。(2)会社の登録資本金の増加または減少、会社の合併または解散、会社形態の変更、会社定款の修正についての議決は、三分の二以上の議決権を有する株主によって採択されなければならない。(3)株主会会議は株主が出資比率によって表決権を行使すると規定されている。

 2006年に入り、次第に林氏と張氏との間に矛盾が生じてきた。

 2006年5月9日、林氏は株主会の招集を提議し通知したが、張氏は林氏が会議を招集する権限がないと考え会議を開催しなかった。

 2006年6月6日、8月8日、9月16日、10月10日、10月17日、林氏は弁護士を通じてA社及び張氏宛、株主の権益が厳重に侵害されたことに鑑み、林氏はA社株主会の二分の一議決権を有する株主として既に会社の定款に決めた手順に従いA社を解散する決議を表決し且つ採択し、A社の財務帳簿など資料の引き渡し、且つA社を清算することを求める趣旨の書状を発送した。

 2006年6月17日、9月7日、10月13日付の張氏の回答書では、林氏の作成した株主会決議に合法的な根拠はなく、張氏はA社の解散に同意できず、且つA社の財務資料の引渡しを要求した。

 2006年11月15日、25日、林氏はA社及び張氏に書状を送付し、A社及び張氏に対し財務帳簿などの開示、閲覧、A社の利益配当とA社の解散を求めたが、張氏がそれに応じなかったため中級裁判所に提訴した。

 

二、裁決の旨

1.2009年12月8日、中級裁判所は民事判決を下し、林氏の訴訟請求を退けた。判決後、

林氏は上訴を提起した。

2.2010年10月19日、高級裁判所は民事判決を下し、一審判決を取消し、法によりA社

を解散すると判決した。

 

三、コメント

1.裁判所の発効した判決は、まずA社の経営管理に極めて重大な困難が生じたと認めた。会社法第183条及び「最高裁の「中華人民共和国会社法」の適用若干問題に関する規定(二)」(以下、「会社法解釈(二)」という)第1条の規定により、会社の経営管理に重大な困難が現れたか否かを判断する場合、会社の株主会、董事会或いは執行董事及び監事の運営状況を総合的に分析しなければならない。「会社の経営管理に重大な困難が生じた」とは、会社管理において重大な内部障害が存在し、例えば株主会の機能が麻痺するなど、会社の経営管理に関する決定などが出来ないことに重点を置き、一面的に会社の資金の不足、重大な欠損などを経営管理の困難として理解してはならない。

 本案では、A社は張氏と林氏の二人株主のみで、二人がそれぞれ50%持分を有している。A社の定款では「株主会の決議は二分の一以上の議決権を有する株主によって採択されなければならない」と規定され、且つ、各当事者がその「二分の一以上」に含まれないとしている。従って、二名株主の間で意見が対立した場合、互いに協力しなければ有効な決議を形成できず、明らかに会社の運営に影響を与えることとなる。

 A社は4年間株主会を一度も開かず、有効な株主会決議を形成することができないだけでなく、株主会決議の方式によってA社を管理することもできず、株主会の機能が麻痺していた。執行董事の張氏は董事として、株主会の決議を貫徹できなくなった。林氏はA社の監事として正常に監事の職権を行使できず、監督の役割を発揮しようもない。A社の内部機能は正常に働かず、会社の経営判断が正常に出来なくなったため、たとえ赤字状況に置かれてなくても、A社の経営管理において重大な困難が生じた事実は変えられない。

 

2.A社の内部運営メカニズムは麻痺していたため、林氏の株主権、監事権は長期的に行使できない状態にあり、A社に投資した目的も実現できず、且つA社のデッドロックがその他の方法をもってしても長期間に解決できない。「会社法解釈(二)」第五条では「当事者が協議し、会社の存続の合意を達成できない場合、人民法院は即時に判決すべきと明確に決められている。本案では二審裁判所は司法手段による強制的な会社の解散を慎むことを考慮し、積極的に和解を行ったが、成功に至らなかった。

 

3.林氏はA社の持分の50%を所有し、会社法上会社の解散訴訟を提起する株主は会社の10%以上の持分を有すべきという条件に合致している。

 従って、A社は会社法及び「会社法解釈(二)」に決めた株主が会社の解散を提訴する条件と符合している。二審裁判所は、株主の合法権益を十分に保護し、合理的に会社の管理構造を規範し、市場経済の健全な発展を促進する角度から法によって上述の判決を下した。

 

 

※本稿は、当事務所でアドバイザー契約をしている董弁護士の事務所で発行されている記事を一部加筆修正したものです。