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提出した辞表を撤回できるか

一、 事実経緯

1.  A氏は、機械メーカー(以下、B社という)と期限付き労働契約を締結した。今年1月16日、諸因により翌月20日付けで正式に辞職するが、残り1ヶ月以内に業務引継を漏れなく行い自分の辞職によって会社に迷惑をかけないという内容の辞表文をB社に対し電子メールで送信した。

2.その後、B社からは如何なる書面回答もなかったため、A 氏は1月16日に送った辞表の真意は、仕事が上手く行かずプレッシャーに迫られた状況下で間違った選択をしてしまったためであり、辞表を取り下げ引続き現職に留まるという内容の電子メールを1月20日と2月12日にB社に送り、A氏の方から正式な書面訂正を行うことで、1月16日に送った辞表のメールを取消した。引き続き会社に勤めることは自分の真実の意思表示であり、関連プロジェクトへの継続的従事と、1月20日に送信したメールの内容が正しい意思であるとし、双方の協調を願った。

3.A氏から送信された3通の電子メールに対して、B社は回答をしなかった。2月14日、B社はA氏の初回電子メールによる辞表届けに従い、A氏に「離職手続き取扱通知書」及び「離職証明」を送付した。それらを受け取ったA氏は、B社が一方的に労働契約を解除したとして、労働仲裁委員会に申し入れB社との労働契約の継続履行を求めた。

 

二、  裁決の趣旨

1.労働仲裁委員会は、A氏の主張とB社の弁解理由及び関連証拠を審査し、A氏の1月16日付けB社宛電子メールの内容は、A氏が「労働契約法」第37条に基づいた一方的な労働契約解除の意思表示であり、労働者が一方的に労働契約を解除したことは使用者の批准を経ず直ちに効力が生じるとした。従って、A氏の最初に発信した電子メールは直ちに効力が生じ、一方的に労働契約を解除した行為は既に成立していると認めた。

2.B社は、A氏の離職証明書を発行し離職手続きを取り扱うという使用者の法定義務を履行したことになる。A氏は、B社の行為は使用者の一方的な違法解約であると訴えたが、B社との労働契約の継続履行を求めることに関しての根拠が乏しいと判断し、よってA氏の請求を退けた。

 

三、コメント

1.本案の焦点は、提出した辞表を撤回できるか否かについてA氏とB社の主張が異なっている点である。

(1)A氏は、その辞職行為を既にB社の回答する前に撤回していること、且つ1月20日および2月12日に送信したメールで辞表の撤回を明確に表示していること、以上のことからB社が2月14日に「離職証明」及び「離職手続き取扱通知書」を発行した行為は無効であると主張した。

(2)B社は、A氏が1月16日に電子メールで発信した辞表は一方的な通知であり、労働法関連規定により一方的に労働契約を解除した行為で既に成立していると主張した。

 

2.仲裁委員会は、A氏の提出した辞表はB社による許可を必要とせず、発信されたら即時に効力が生じ、即ち、後から辞表を撤回した意思表示は無効であると認定した。

 

3.労働者は法律が付与した自主的労働契約の解除権利を慎重に行使すべきであり、さもなければ、本案におけるA氏のように後悔することになる。一方、会社側は一旦提出した辞表を撤回したい社員の理由を吟味し、引き受けるか否かについて慎重に検討するべきである。

 

 

※本稿は、当事務所でアドバイザー契約をしている董弁護士の事務所で発行されている記事を一部加筆修正したものです。