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債務不履行なら出国出来ない

一、  事実経緯

 A社は元々中外合弁企業であり、A社の董事は外国人であるB氏である。

 2002年10月30日、A社はC社との間でA社の持分の全てをC社に譲渡する協議書を締結し、2003年3月14日、A社所在地の政府機関によって許可され、内資企業に変更した。その期間中である2002年11月、B氏は当時のA社董事会の決議を経ずに本人の給与及び報酬を支払う名義で、勝手にA社の口座から304,000元を振替えた後、更にA社の現金20,000元を取りだした。

 A社はB氏の離職後、何度もB氏に324,000元の返還を求めたが、いずれも拒否された。

 2003年6月、A社はB氏を市の中級裁判所に提訴し、324,000元の返還、及び関連利息の賠償を要求した。

 

二、  裁判結果

 一審は受理後、A社の主張を支持すると判決した。B氏は一審判決を不服とし、市高裁に上訴した。

 市高裁は審理後、2004年5月20日上訴を退け、一審判決を維持する終審判決を下した。

 二審判決後、B氏が判決を履行しなかったため、A社は一審裁判所に判決の執行を申請し、一審裁判所はB氏に執行通知書を発行し、民事判決書に定めた324,000元及び利息を返還する義務を期限付で履行せよと命じた。

 

三、  執行結果

 2004年12月、B氏の消息が不明となり、またその執行可能財産が見つからないため、一審裁判所は本案の執行手続きの中止を裁定した。

 2006年9月、A社はB氏が中国国内で働き、頻繁に日中間を往復していることを発見し、書面で一審裁判所にB氏の出国を制限するよう申請した。執行裁判官はA社の提供した関連証処を審査し、2006年11月13日にB氏に対して『本案執行期間中は出国できない。もし、本案の執行目的金額324,000元及び関連利息の担保及びその他の担保を提供できれば、出国できるものとするが、当裁判所の法廷喚問を受けなければならない。』という内容の決定書を下した。しかし、当時の出入国制限範囲は上海の出入国税関に限られていたため、B氏に対する出国制限措置は本案の執行進展には至らなかった。

 2009年5月、A社は2008年4月1日に施行された民事訴訟法により、再び市中級裁判所にB氏の出国停止措置を求める書面及び新しい証拠資料を提出した。執行裁判官は、新しい資料によれば発効した法律文書に決めた義務の履行をB氏が故意に逃げる恐れがあると認め、2009年6月29日、B氏に出国を制限する決定書を下し、且つ市公安局を通じて、中国全土範囲に渡る制限措置を施した。

 B氏はその後上海、深圳、浙江省などの出入国税関での出国を図ろうとしたが、いずれも成功に至らなかったため、遂にやむを得ずその弁護士を通じて、執行裁判官に連絡し、A社に380,000元を一括で支払い、出国制限措置を解除された。

 

四、  コメント

1、本案では、裁判所はA社によるB氏の出国制限の申請内容の審査において、形式用件及び実質用件が揃ったかどうかを判断した。

(1)形式用件には書面形式の提出、出国制限理由及び範囲、法律文書を履行しない証拠証明、出国制限対象者の身元情報及びパスポート情報が含まれる。

(2)実質用件には必要性、適当性及び効果性が含まれる。

 本案では、B氏は発効した法律文書を履行しなかった客観的な事実だけでなく悪意があるため、B氏に対する出国制限の威圧措置を取ることは十分可能である。

 B氏は中国での固定住所がない外国人であり、執行に供する国内固定資産もない。一方、A社は民間企業であり、324,000元及び関連利息の回収がA社にとって重要なことである。よって、裁判所がB氏に出国制限を施すことは合理的で妥当な判断である。

 B氏は中国の合弁企業で要職を務め、債務返済能力を有しているが、中日間を頻繁に往復している為、その出国が出来なくなると生活及び仕事上大きな影響を受ける。その為、裁判所は出国制限措置を取ることでB氏を威圧できると判断した。

2、本案に限らず、原告は被告の債務逃避の緊急性があるか否か判断し、裁判所に提訴すると同時に被告の出国停止を申請することも重要である。

3、執行申請人が被執行人に出国制限措置を取ることは法律上債権人に附与された権利である。但し、出国制限措置は直接に人身に作用する強制措置であるため、慎重的に行使しなければならない。さもなければ、逆に相手によって損害賠償などの責任を追及されることに留意する必要がある。

 

 

※本稿は、当事務所でアドバイザー契約をしている董弁護士の事務所で発行されている記事を一部加筆修正したものです。