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「遼寧沿海経済ベルト発展計画」~遼寧省営口市・長興島を視察して~

  2012年11月下旬、日中経済貿易センター上海事務所主催による「遼寧省視察会」が開催されました。国家プロジェクトである「遼寧沿海経済ベルト発展計画」(旧五点一線計画)に焦点を当て、その重要拠点である営口市と長興島、大連保税区を視察しました。本稿は営口市と長興島についてご紹介します。

 

1.営口市

(1)営口市の概要

 営口市は、渤海湾の北東側、瀋陽市と大連市の中間に位置する人口235.5万人の地級市である。GDPは1002.4億元(2010年)。渤海湾沿岸部に国家級の遼寧(営口)沿海産業基地を持ち、冶金、石油化学、機械、繊維、建材、医薬、電子等の産業が発達している。営口港は世界40ヶ国以上140余りの地域との間で航路が開かれており、貨物取扱量は大連港に次いで東北2位である。

 

(2)営口市政府管理部門企画館訪問

 五鉱産業園発展有限公司の協力を得て、五鉱(営口)産業園を中心に遼寧(営口)沿海産業基地の説明を受けた。2005年8月、元遼寧省書記の李克強氏が遼寧「五点一線」沿岸経済ベルトの開発計画を提出したが、遼寧(営口)沿海産業基地は五点の一つである。中国五鉱集団は鋼鉄、貿易、物流等の面において遼寧省と深い提携関係があったことから、2007年2月、営口市政府と「五鉱(営口)産業園の開発提携協議」を締結し、30平方㎞にわたる中国初となる企業主導による大規模開発プロジェクトを進めている。今後15年をかけて装備製造、新エネルギー工業団地、電子・情報科学技術団地、新材料等の総合工業団地を発展させる計画である。

 

 ※中国五鉱集団は非鉄金属、鉄金属、不動産、金融、物流を主要事業とし、グローバル経営を進めている中央政府直属の国営企業で、フォーチューン世界トップ500社の1社である。

 

(3)日系企業視察

 婦人用下着メーカーのOEM生産を行う縫製工場を視察した。生地の裁断、縫製、個包装まで行う従業員約500名(9割以上が女性)の整然とした工場であり、営口市への進出は日本本社役員と営口市との人的繫がりがきっかけだったとのことだが、大連市に比べ人件費・人員確保の面でメリット享受しているとのことである。しかし、近年の賃金上昇の波は避けられず、従業員定着率を高めるために給与面でのインセンティブ付与や福利厚生面での充実など細かい配慮を行っていた。また、幹部職員については日本での研修を受けさせるなど技術面での養成にも重点を置いていた。中国企業からの生産委託も増加してきており、今後の成長が見込まれる企業である。

産業立地の立体模型(将来像)

国家最高基準の地下排水・電線設備

産業園周辺の様子

営口港

 

2.長興島

(1)長興島の概要

 長興島は、北の瀋陽まで292㎞、南の大連まで83㎞に位置する「遼寧沿海経済ベルト発展計画」の重要拠点の一つで、面積は252平方㎞、中国で5番目に大きな島である。

 石油化学工業、造船業などが発達し、大手日系企業、韓国造船企業などが進出している。2010年4月、長興島臨港工業区は国務院の批准を受け、国家級経済技術開発区に昇進した。

 

(2)長興島臨港工業区管理委員会訪問

 大連市政府の出先機関である長興島臨港工業区管理委員会によれば、長興島臨港工業区は、2005年6月、前遼寧省書記の李克強氏が「遼寧省の全力を挙げて長興島を開発する」ことを打ち出して以降開発が開始され、2010年4月に国家級経済技術開発区に昇格し、深セン、上海浦東、天津濱海新区と同じ歴史的使命を担う重要な位置づけにある開発エリアである。

 主な産業は、石油化学、造船、海洋構造物製造、先端技術を備える製造業および先進的サービス業であり、現在、中央政府関連機関が長興島を日中韓自由貿易試験区として建設する研究に取り組んでいる。

 

(3)日系企業視察

 産業用ガスメーカーと再生資源回収加工販売の2社を視察した。前者は稼働して2年程経過し徐々に軌道に乗ってきた時期であり、今後第2工場の建設を予定している。後者は、まだ試運転の状況であるが、世界最高レベルの最新鋭設備を導入し、2011年1月に施行された中国廃電子機器リサイクル法に対応した中国のモデル工場を目指している。いずれの企業も進出後間もないが、今後の事業展開が注目される。

 

長興島臨港工業区の立体模型(将来像)

商業施設の開発も進む

整備されてきたインフラ(工業園区内)

石油化学工場

急ピッチで進む住宅開発

3.視察を終えて

 営口市、長興島の両政府関係者は、各地が深セン、上海浦東、天津濱海新区を同じ歴史的使命を担う重要な位置づけにあることを強調していた。深セン他いずれのエリアも歴代の国家主席が開発を強化した沿岸開発区であり、従って遼寧省書記を経歴に持つ李克強次期首相に寄せる期待は大きかった。

 視察した印象としては、両エリアともようやくインフラ整備が整いつつある状況であり、開発途上にあることは否めなかったものの、中央政府が今後「都市化」の推進を掲げていることからも開発ピッチが進み急速に発展する可能性もある。今回視察した日系企業は、業種や進出時期は異なってはいたものの、いずれも第二次産業に属しており各地の優遇政策、家賃や人件費等、コスト面でのメリットを享受していたが、今後政府が進める「都市化」の推進は新たな商機をもたらすかもしれない。

 2012年12月1日、大連からハルピンまでの東北3省を縦断する高速鉄道が正式に運行を開始した。全区間を約5時間半で結び東北の移動が従前に比べ格段に便利になったことは、その路線上にある両エリアへの経済効果も期待される。地方政府は強い行政指導力と豊富な資金を使って開発を進めてきたが、今後はその運用と効果が注目されそうである。