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抵当権は所有権に対抗はできるか

一.事実経緯

 A機械メーカー公司(以下、A社という)はBプラスチック成型公司(以下、B社という)と生産設備(以下、設備という)の売買契約を締結し、設備代金の支払いが完了するまで設備の所有権はA社に帰属すると約束した。契約後、B社はA社に代金の一部しか支払わず、残金10万元が未支払いになっていたため、A社はB社を提訴した。

 

二.裁判所の判決

 裁判所はA社の提訴を受理、開廷後、B社にA社に対する残金10万元の支払いを命じた。

 しかし、B社が判決を履行しなかったため、A社は裁判所に判決執行を申請した。裁判所がB社の工場内にある設備を差し押さえた際、B社は設備をすでに借入の抵当にしていると釈明し、A社は当該設備の所有権留保を主張した。執行裁判官は双方の言い分に対して調べ、B社がA社から購入した設備を直ちに地元の信用金庫(以下、C社という)から融資を受けるために抵当に入れ、かつ工商管理部門に抵当登記を行っていたことが分かった。

 A社はC社と共に裁判所による設備競売に賛同したが、A社は設備の所有権を有するため競売金が自分に帰属すると主張した。一方、C社は抵当権者として、競売金を優先的に求償する権利を有すると反論した。

 裁判所はC社が設備の競売後優先的に求償権を有するとの判決を下した。

 

三.コメント

1.本案は実質的に所有権留保効力と抵当権遡及力との競合関係にある問題である。

2.中国契約法第百三十四条で初めて中国の所有権留保制度について定め、抵当権設定者が抵当物を他人に譲渡したとしても、抵当権の効力に影響を及ぼさず、抵当権は抵当物の分割、譲渡によって影響されないとした。

3.本案のC社は抵当権を善意に取得し、かつ法定機関の登記を経た。抵当権は他物権に属し、他物権の存在は所有権に対する制限を形成し、所有権に対抗する効力を有する。他物権の合法存続期間中、所有権は他物権に優先する効力が無い。それは民法理論における担保物権が所有権に優先する規則である。

4.抵当権の遡及力によって、抵当物の所有権が譲渡されたとしても、抵当権者は原則上抵当物の所在を追及し、現在の所有者に抵当権を主張しなければならない。また、抵当権に追及効力が付与されることで、抵当権者の権益を充分に保障することができる。

5.A社は当初起訴時に、B社の残金のみを請求し、設備の返却を求めず、裁判所の判決もB社に残金支払いを命じた。従って、A社は実質的に所有権留保を放棄し、その権利の性質は一般債権に転換されたと考えられる。

6.現実に、多くの企業は、取引契約書に所有権留保の条項を盛り込んでいるが、本案のB社のように契約履行前の抵当権設定もありうることを念頭に置くべきだろう。

 

※本稿は、当事務所でアドバイザー契約をしている董弁護士の事務所で発行されている記事を一部加筆修正したものです。