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時効になっても経済補償金を請求できるか

一、事実経緯

 A氏はB社の元社員であり、B社は2006年12月28日に労働契約を解除した。B社はA氏に失業一時金を支給したが、経済補償金を支払わなかった。2008年5月30日、A氏は労働仲裁委員会に提訴し、B社に経済補償金、休日残業代などを求めた。B社は、経済補償金、休日残業代などの請求権の時効(1年)のため、労働仲裁申請が無効であると主張した。

二、仲裁裁決

 2008年9月9日、労働仲裁委員会はA氏の請求を支持する裁決を下した一方、B社が提起する仲裁時効問題については裁決を行わなかった。B社は仲裁申請期限が過ぎていることを理由に仲裁裁決を不服とし、裁判所に提訴した。

(注)日本では仲裁判断には確定判決と同じ効力があり、当事者は拒否することができず、裁判を起こすことはできませんが、中国では仲裁裁決に不服がある場合、裁判を起こすことができます。

三、裁判所の判断

 本案焦点は、労働仲裁申請が時効を超過しているかどうか、B社の提起する労働仲裁時効の問題をどう処理すべきかについてどう判断するかであり、裁判官の間で、裁判所として労働争議案件を受理し審理すべきかどうかで意見が分かれた。

 最終的に、裁判官は、仲裁委員会の裁決に当事者が不服を申し立て、裁判所に提訴した場合には仲裁裁決に法律効力が生じないものとし、裁判所は労働仲裁の裁決に不服申し立てがあるとして、裁判所に提訴された労働争議案件に対しては改めて審理しなければならないとして、B社の「労働仲裁申請自体が時効のため無効である」とする訴求を退け、受理すべきと判断を下した。

四、コメント

 本案の裁判官は、その状況に対応して受理すべきと判決したが、現実にあらゆる状況下で裁判所が仲裁時効の問題を受理し審理するものではなく、裁判所が受理しない場合を以下の通りに取りまとめる。

1、当事者が仲裁段階及び訴訟段階において、仲裁時効の問題を提起しなかった場合。

(1)民事訴訟法の「告訴なきは受理なし」の原則に従い、当事者の自主処分   行為を尊重する。

(2)当事者が訴訟時効に対する抗弁を提起しない場合には、裁判所は訴訟時効問題について釈明及び自ら訴訟時効の規定を適用し裁判してはならない。

2、当事者は仲裁期間中、被訴人が仲裁時効をもって抗弁せず、仲裁委員会も自ら審理せず、訴訟段階において会社が仲裁時効にかかる問題を提起した場合。

(1)訴訟を重視し、仲裁を軽視する多くの企業が濫訴する傾向を食い止める。

3、当事者が仲裁委員会に仲裁中、被訴人は仲裁時効をもって抗弁し、仲裁委  員会は審理後、仲裁申請が時効を超過していないと認め、かつ仲裁について実体処理を行った場合。

4、仲裁委員会が労働者の仲裁申請が仲裁時効を超過していることを理由に受理しない案件について仲裁時効を審理する場合。

 

※本稿は、当事務所でアドバイザー契約をしている董弁護士の事務所で発行されている記事を一部加筆修正したものです。