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競業禁止契約は無効か

一.事実経緯

 A有限会社(以下、A社という)はA社に勤務中のB氏と「企業従業員守秘契約」を締結し、その契約において、B氏は離職後2年以内においてA社と同業他社に就職してはならないとし、A社はB氏に競業禁止の補償金を支払うと約束した。

 2008年11月16日、B氏はA社に辞表を提出し、A社から12か月の競業禁止補償金として10,080元を支払われた際、守秘契約のすべての条項を遵守すると表明した。

 その後、A社の調査でB氏が離職手続き前から同業他社である某食品有限会社(以下、C社という)に勤務していたことが発覚した。

 2010年9月18日、A社はB氏が競業禁止契約に重大に違反したことを理由に裁判所に提訴し、違約金50万元の支払いと本案訴訟費の負担を求めた。

 

二.判決趣旨

 法廷審理中、B氏は、A社との守秘契約における競業禁止条項の補償金に関して合理性が欠け無効であることを理由に競業禁止の義務を負わないこと、A社には保護に必要な商業秘密が存在しておらず、一方的な競業禁止条項は成立しないこと、自身は競業禁止条項に定められた競業業務に従事していないこと、仮に自分が違約金を負担すべきであるとしても、A社が請求する50万元の違約金は高すぎると主張し、A社の訴求を退けるよう要求した。

 A社は、自らの主張を裏付けるためにB氏との労働契約、守秘契約、B氏のために実施した日本での研修費用明細および研修誓約書、C社の工商登記資料などを証拠として裁判所に提出したほか、A社を退職したB氏が、C社で乾燥剤プロジェクトの推進及び機械設備の保守を担当している事実と、そのC社の経営範囲に乾燥剤の生産、加工が含まれ、B氏が競業禁止条項に違反したことを理由に残り1年分の競業禁止補償金を支払わなかったと法廷で強調した。

 裁判官は、B氏の収入は離職前の月収2,500元から競業禁止補償金の毎月840元まで急減し、最低賃金レベルに属しており、B氏はA社を退職後、競合関係にあるC社に就職し、競業を構成する業務に従事しているが、A社の補償は不合理であると結論を出した上、B氏は競業禁止義務、つまり競業禁止契約の違約責任を負わないものとした。代わりに、B氏はA社から支給された補償金10,080元を返上し、かつ2008年11月17日から履行日までの銀行預金利息を加算しA社に支払うように命じた。一方で、A社のB氏に対する違約金支払いの訴訟請求を退けるとの判決を下した。

 

三.コメント

1、本案は競業禁止で約束した事由に該当しているが、その競業禁止契約は有効か、B氏は競業禁止の義務を負うべきかに関しては、「契約法」における契約効力の認定に関する一般規定に拠るほか、以下の諸要素を考慮しなければならない。

(1)競業禁止契約は単独に存在するものではない。

 本案のB氏はA社の元社員であり、A社と労働契約を締結後、守秘協議を交わし、競業禁止契約が単独に存在していない要素に合致している。

(2)競業禁止契約を締結する使用者側が守るべき利益を有している。

 本案のA社は、B氏にA社の為に役立ってもらうよう、社費で日本へ研修派遣させたことを競合相手であるC社に利用されることを望んでいない。それは競業禁止契約に求める保護に値する利益を有する要素を構成している。A社に商業秘密があってはじめて競業禁止契約が成立するとするB氏の抗弁主張は、競業禁止契約において使用者が守る利益の範囲を狭め過ぎ、使用者の合法利益の保護に不利になる。よってB氏の主張は裁判所に受け入れられなかった。

(3)競業禁止業務に禁じる労働者の就労業種、期限及び範囲は妥当である。

 本案のB氏が就職したC社は、就労を禁止される乾燥剤生産および設備管理の業界に当てはまるほか、2年間の同業就労禁止期限は合理的な範囲にある。

(4)使用者は合理的な補償金を支払わなければならない。

 補償金の支払いの合理性について統一の規定がなく、各地域の地方法規では、労働者の離職前報酬の3分の1、2分の1、または3分の2などそれぞれ基準ラインを設け、補償金の妥当性に関し判断根拠としている。しかし、本案の裁判官は、前記の基準ラインを採用せず、補償金の形成の経緯に着眼し、B氏が陳述した、A社との競業禁止契約の際に弱者の立場に立たされ、競業禁止の義務を負う一方、元の生活レベルから大幅なダウンを強いられており、A社のB氏に対する補償金が不十分であるとの主張を認め、B氏が競業禁止義務を負わないとの判決を下した。

2、実際に競業禁止補償金をいくら支払えばよいかについて、上記(4)の基準ラインよりも、むしろその労働者の住居地の生活レベル、物価、最低生活保護レベル、最低賃金レベル、医療、住宅コスト、労働者の原収入等諸要素を重視し、総合的に補償金を算定し、全体的に労働者の元の生活レベルを非合理に大幅に引き下げないよう留意すべきである。さもなければ、せっかく締結された競業禁止契約は無効になってしまう可能性があるだろう。

 

※本稿は、当事務所でアドバイザー契約をしている董弁護士の事務所で発行されている記事を一部加筆修正したものです。