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飲酒運転に対する罰則を強化 ―道路交通安全法の改正―

 注目されていた道路交通安全法が2011年5月1日に施行され、従来の法令に比べ酒気帯び運転及び酒酔い運転に対する罰則が強化された。公安部交通管理局の統計によると、5月1日から15日までに取り締まりの対象となった飲酒運転の件数は2,038件で昨年同期比35%減少した。また、飲酒運転が原因による交通事故死亡者数及び受傷者数も、昨年同期比それぞれ37.8%、11.1%減少した。

 中国は交通事故の死亡件数が多く、全世界の15%を占め、世界一となっているが、その原因の一つに道路交通法違反に対する処罰が軽いことがあげられる。例えば改正前の道路交通安全法では、飲酒運転をしても事故を起こさなければ行政処罰は軽微であり刑事責任は問われなかったため、飲酒運転は一向に減らなかった。しかし、2009年に杭州、南京等で飲酒運転による交通事故が頻発し、一般市民の中からも飲酒運転への罰則の強化を求める声が高まってきた。

 内務司法委員会の調査報告によると、2009年の中国全土における飲酒運転件数は31.3万件、そのうち酒酔い運転が4.2万件もあった。飲酒運転による交通事故と死亡者数は昨年より減っているものの、飲酒運転は「車による殺人」であり許されるべきものではないと指摘されている。現在、飲酒運転の根絶は交通管理部門の重要な業務となっている。

 中国でも飲酒運転は酒気帯び運転と酒酔い運転の2種類に分けられている。判定基準については、100ミリリットルの血中アルコール濃度が20ミリグラム以上かつ80ミリグラム未満の場合は酒気帯び運転であり、80ミリグラム以上の場合は酒酔い運転と定義されている。

 改正後の道路交通安全法では、酒気帯び運転の場合、従来の「1ヵ月以上3ヵ月以下の期間で運転免許停止かつ200元以上500元以下の過料に処する」から「6ヵ月間運転免許停止かつ1,000元以上2,000元以下の過料に処する。再犯の場合、10日以下の行政拘留かつ1,000元以上2,000元以下の過料、運転免許取消」に変更された。

 酒酔い運転の場合、従来の「15日以下の行政拘留、3ヵ月以上6ヵ月以下の運転免許停止かつ500元以上2,000元以下の過料に処する」から「運転免許取消、刑事責任の追及、5年以内の免許再取得の禁止」に変更された。刑事責任とは、1ヵ月以上6ヵ月以下の拘留かつ過料に処することである。つまり今回の法改正によって刑事責任を追及する「危険運転罪」が設けられ、仮に事故を起こさなくても拘留と過料に処すことが可能となった訳である。そのため、5月に入り各地でこの危険運転罪により送検されるケースが急増し、最高裁の副院長による「単に酒酔い運転しただけで情状が軽易な場合は訴追する必要はない」という発言も出るなど、司法当局には混乱もある。

100ミリリットル中の
血中アルコール濃度

改正前処罰 改正後処罰
酒気帯び運転 20ミリグラム(概ねビール1杯)以上80ミリグラム(概ねビール2本)未満 1ヵ月以上3ヵ月以下の期間で運転免許停止、かつ200元以上500元以下の過料

・6ヶ月間運転免許停止、かつ1,000元以上2,000元以下の過料

・再犯の場合、10日以下の行政拘留、かつ1,000元以上2,000元以下の過料、運転免許取消

酒酔い運転 80ミリグラム以上 15日以下の行政拘留、3ヵ月以上6ヶ月以下の期間で運転免許停止、かつ500元以上2,000元以下の過料

運転免許取消、刑事責任(※)追及、5年以内の免許再取得の禁止

※飲酒運転による刑事責任とは、拘留(1ヵ月以上6ヶ月以下)かつ罰金を課すこと。

※酒気帯び運転、飲酒運転ともに交通事故を起こした場合は、刑事責任が追及され重罪の場合は死刑判決もあり得る。

 そうしたなか、改正道路交通安全法が施行されてから間もない5月9日の夜に、酒酔い運転で4車両を巻き込む追突事故を起し、4人を負傷させた中国の有名な音楽プロデューサー(G氏)が話題となった。事故直後に拘束されたG氏の100ミリリットル中の血中アルコール濃度は243ミリグラムと酒酔い運転基準値の3倍を超えていた。16日、G氏は、運転免許取消、5年間以内の免許再取得禁止の行政処分を受け、さらに17日、懲役6ヵ月と罰金4,000元の重い判決を受けた。G氏は判決に対し異議申し立てはせず、後悔の念だけを抱いているとのことで、事故への賠償と生涯に渡るボランティアに努めることを表明した。飲酒運転の取り締まり強化が実施された直後であったため、G氏の犯行は中国で特に注目され、厳しい判決に対しても賛同する声が多かったようだ。

 しかしその一方で、飲酒運転に対する罰則強化は、犯行者が処罰を免れるために逃走するという問題も生じさせることがある。飲酒運転手が検査現場で強引な通過を図って勤務中の警察官に怪我を負わせるという事件も報道された。日本でも、飲酒運転者が事故を起こした時に、重い刑罰を適用されないよう現場から逃走する「ひき逃げ」が多発したことがあるが、中国においても飲酒運転に対する罰則強化が飲酒運転根絶に繋がっていくにはもう少し時間がかかるかもしれない。

参考:
中華人民共和国中央人民政府公式サイト、交通事故処理網、新華社サイト、東方網、NNA、国際貿易新聞、網易新聞、華律網等