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西部大開発の内陸都市を行く②(重慶市レポート)

はじめに~重慶市の概要~

 前回(西部大開発の内陸都市を行く①(成都市レポート)に引き続き内陸都市をレポートします。

 成都の次に訪れたのは、中国に4つある直轄市の中で唯一内陸部にあり最大の面積を誇る重慶です。 成都北駅から重慶北駅まで約1時間おきに高速鉄道が運行しており、所要時間は約2時間ほどです。 1等列車であれば、シートは日本の特急電車よりも随分広くコーヒーの車内販売もあって実に快適です。

 重慶は1997年3月に直轄市に指定され、面積は北海道本島よりも広い82,400k㎡、人口は2,859万人と 中国の四大直轄市の中で最も多く、経済成長は2002年から連続で二桁成長を続けており、2009年の伸び率は 全国第3位となりました。自動車・オートバイ産業を中心に急速に発展してきた一方で、市民の約半数は農村地 域に居住しており中心部と農村地域間の所得格差が大きいという課題も抱えています。

 そうした中、重慶は西部大開発のエンジン役として期待されており、その開発戦略策として都市化の推進(戸籍 転換制度による都市戸籍の規制緩和等)、先端型製造業と先進的サービス業の産業育成を急ピッチで進めています。 特に、工業化や産業高度化の進展を加速させる開発計画があり、市科学技術委員会は今後5年間に両江新区を中心 に1兆元(約12.5兆円)規模の新興産業の拠点を建設することを明らかにしています。これは、上海浦東新区の規模に 匹敵する規模であり、今後ハイテク産業に加え、サービス業、金融産業の誘致にも重点を置きながら、アジア最大のノート パソコン生産基地を目指しています。将来、アジアのシリコンバレーと呼ばれるのは重慶かもしれません。

重慶の街並み

 重慶は別名「山城」と呼ばれているように傾斜地に開けた都市であるため実に坂道が多く、そのため車の排気ガスも多 いせいか非常に空気が霞んでいました。上海の空気が随分きれいに感じられてしまったほどです。

 独特の地形であるため交通ルートは複雑で、移動手段はバスかタクシーが一般的であり、長江と嘉陵江を渡るロープ ウェーも移動手段の一つになっています。現在地下鉄を含めた線路の建設も進められており、将来的には10路線まで 計画されています。また、高層ビルの多さと、現在進行中の工事現場の多さはこれまで行ったどの都市よりも多く、建設 ラッシュがとどまることなく進展しているように思えました。

 重慶では成都に比べるとベンツやBMWといった高級車を良く見かけましたが、それは、重慶人は面子を重んじる 傾向が強くブランドやグレードを気にしている表れなのかもしれません。しかし、そうした高級車や林立する近代 的なビルを多く目にする一方で、路地裏には貧しい雰囲気の漂う古い住宅や小さな露店が無数に広がっており、 所得格差が大きい重慶のもう一つの顔が見えてくるようでした。また、これだけの都市でありながらコンビニが殆ど 無かったのも意外でした。

街で見かける建設工事現場

重慶の中核的商業エリア「解放碑歩行街」

 

重慶の消費市場

 重慶の中核的商業エリアとなる解放碑歩行街は渝中区の解放碑中心区にあり、重慶を代表する歩行街です。営業面積 5,000㎡超の大型店舗が20軒以上あると言われ、林立する店舗の数と往来する人の数に圧倒されるばかりでした。報道に よると、2月1日の1日だけで100万人が訪れ、売上総額が1億5千万元(約19億円)に達したというから驚きです。

 2009年の重慶の社会消費品小売総額は2,479億元(約3兆1千億円)と総消費量では同じ内陸都市である成都・西安を 大きく上回っており、巨大な消費力を表しています。しかし、成都で見られたほどの高級ブランドショップは見当たらず、購買品 の質という面ではまだまだ途上にあると感じました。実際、一部のハイクラス層を狙った百貨店以外では、庶民向け商品がほとんど であり、デザイン性もあまり感じられず、消費水準と購買層は上海にはまだまだ及びません。ただ、高級百貨店である美美百貨店が 改装オープンを控えるなど、今後国際ブランドが更に展開される見込みであり、贅沢品への需要も一層強まるものと思えます。

 一方、日本製品への趣向はまだまだ浸透しておらず、一部の高級百貨店や外資系スーパーで日本大手メーカー品が中国産品 の中に紛れるように陳列されており、品数も少なめでした。先駆者利益を確保する可能性も秘めていると言えますが、重慶人の対日感情 を考えると慎重を期する必要があるかもしれません。

内陸都市のゆくえ

 今回、成都と重慶を訪れて感じたことは、上海以上の発展性と今後の中国における内陸都市の位置づけの重要性でした。重慶で 企画展覧館を覗いてみたところ、今後20年の都市計画であるビジネスエリアの開発、空港開発、高速道路・鉄道計画などが展示されて いましたが、特に興味を抱いたのが鉄道計画でした。昨年12月に欧州行きの鉄道が全線開通したとの報道がありましたが、そのルートは 重慶を起点に、新疆ウイグル、カザフスタン、ロシアを経由しオランダ、ドイツのデュッセルドルフに至る路線で、今後、重慶で生産された パソコンを欧州に直接輸送し、また広東省、上海などの沿岸都市から輸送する際は重慶が中継地点となるそうです。

 東南アジア・欧州まで巻き込んだユーラシア大陸大鉄道計画があるようですが、重慶はその要衝に位置しており、その国家戦略上 の重要性が推し量られます。10年後にまた重慶を訪れてみたいと感じました。

(このレポートは財団法人茨城県中小企業振興公社機関誌「Wing21(2011年7月号)」に寄稿したものです)