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業務紛争による損失を理由に担当者を解雇できるのか

一.事実経緯

 2012年3月7日、X氏は上海にある建築製品会社(以下、「A社」という)に入社し、生産統括を担当し、3年間の労働契約でX氏の月給11,000元とし、かつX氏を外地にある金属部品会社(以下、「B社」という)に派遣し、B社のブランド生産作業を担当することとした。2013年3月、X氏の月給は15,000元に昇給した。

 2013年7月、B社はX氏をB社の代表として、機械加工会社(以下、「C社」という)と加工契約を交渉し、C社が自らの材料で加工した部品をB社に販売することで合意し、双方はC社の提供した格式契約を調印した、その後、B社は、部品仕様の変更により、自社で新しい材料の供給に切り替え、加工作業だけをC社に任せた。

 C社が既にB社から材料代を受領していたため、B社はX氏にその代金返還についてC社と協議するよう指示した。X氏がC社と協議の上、部品の加工賃単価を150元から100元に減額することで合意した。直ちにX氏がその減額に関する意向書をB社に確認したが、その後許可を得られなかったため、上記契約価格の変更については書面の変更協議書を締結しなかった。

2013年12月、C社がB社に対し単価150元により算出された代金を支払うよう裁判所に提訴した。B社が減額を裏付ける証拠を提供できなかったため、B社の敗訴に終わった。

 2014年1月31日、A社は厳重な職務怠慢、不正利得行為により会社に重大な損害を与えたことを理由にX氏との労働契約を解除し、かつX氏の2014年1月の賃金15,000元から、A社への賠償金として12,000元を控除し残り3,000元を賃金として支給した。

 2014年2月中旬、X氏が、A社に対し、労働契約の違法解除による賠償金及び控除された2014年1月の賃金を返還するよう、仲裁を提起した。

 二.仲裁裁決と判決

 労働争議仲裁委員会はX氏の仲裁請求を支持した。

 A社は仲裁裁決を不服として訴訟を提起したが、裁判所はその訴訟請求を却下した。

 三.コメント

 1.本案において、A社がX氏と労働契約を締結した雇用者であり、B社が実際にX氏を使用した企業である。A社とB社がX氏に対する義務の履行について約束しなかったため、A社が労働法上の雇用者としての権利義務を履行しなければならず、X氏を解雇したことにより生じた法律上の結果はA社が負担しなければならない。

 2.本案において、A社がX氏による厳重な職務怠慢、不正利得行為によりA社に重大な損害を与えたことを理由に労働契約を解除した場合、X氏には職務怠慢があるかどうか、情状の厳重さ及び損害状況について十分に立証しなければならず、立証できなかった場合は労働契約違法解除として相応の責任を負わなければならない。X氏は、B社の代表として、C社の格式契約を採用し、かつB社総経理の捺印署名の行為による契約内容の確認を受けたため、その行為は慎重で適切であった。契約内容の変更においても、意向書をB社に確認したが、B社の許可が得られない状況下では、勝手にC社と変更協議書を締結することはできない。加工賃の変更について合意できない責任はX氏になく、同様にB社が訴訟敗訴の責任をX氏に帰することは根拠が乏しいものである。従って、A社が厳重な職務怠慢により会社に重大な損害を与えたことを理由にX氏との契約を解除したことは違法解除にあたる。

 3.本案において、A社がX氏の厳重な職務怠慢、不正利得行為により会社に重大な損害を与えたことを立証できなかったため、X氏の賃金は控除してはならず、その差額部分を返済しなければならない。仮にA社の主張が成立した場合でも、A社がX氏の2014年1月の賃金から控除した12,000元は、X氏本人の当月賃金(15,000元)の20%を超えているため、工資暫行規定16条(※1)に抵触する。

(※1)工資暫行規定16条

 労働者本人の事由によって雇用者が経済損失を被った場合、雇用者は労働契約の約定に基づいて労働者に経済損失賠償を求めることができる。経済損失賠償は労働者本人の賃金から控除することができるが、毎月控除される額は労働者の当月賃金の20%を超えてはならず、控除された後の賃金は地元の最低賃金基準を下回った場合は最低賃金基準に基づいて支払わなければならない。

 

※本稿は、当事務所でアドバイザー契約をしている董弁護士の事務所で発行されている記事を一部加筆修正したものです。