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注目すべき不当な賠償請求

一、事実経緯

 2005年11月2日、貿易会社(以下、買主という)はある助剤製造会社(以下、輸入側という)を代理してA会社(以下、売主という)から総価格507,550米ドルのウォータージェット織機1式(以下、設備という)を輸入する契約を締結した。設備は2005年11月21日に上海港着、翌月20日に浙江省にある輸入側に輸送された後、露天倉庫に置かれていた。2006年10月8日から据付、18日に設置完了した設備はテストで色々トラブルが発生したため、売主は技術者を派遣して2006年11月25日付テストの覚書に署名した。

 しかしながら、買主と売主は設備の品質問題について数回の協議を経ても和解の合意に達しなかった。

 2007年11月7日、売主は仲裁を申し立て、売主に対して総額7,829,532人民元の賠償を次の通り求めた。

1、直接経済損失1,179,532人民元、その根拠は最終ユーザー3社が作成した、賠償を受け取ったとする空白領収書。

2、間接利益損失665万人民元、その根拠は輸入側が輸入設備を投資したプロジェクト実行性経済収益分析報告書。

 

二、仲裁裁決

1、直接経済損失の賠償について

  本案は設備の品質問題に関わる紛争として、申請者が複数の客観的な要素に対して責任を負うが、被申請者より派遣された技術者がテスト覚書に署名した事実、被申請者が2007年1月10日に行った反論から見れば、その設備の品質問題が存在していることは明らかであり、それによって申請者にもたらした経済損失も確実である。申請者は被申請者に経済損失を求める権利を有している。申請者が提出した損失証拠が法的効力を生じなかったが、契約における設備価格の20%に相当する金額、507,550.52米ドル×8.26(ドル人民元為替レート)×20%=838,473.46人民元を賠償するのは合理的である。

2、間接利益損失の賠償について

  申請者が主張した間接利益損失665万人民元の根拠は投資したプロジェクト実行性経済収益分析報告書であるが、開廷後提出した補足資料とは異なっている。実行性報告書に基づいて算出したものとしても、当該報告書を基準として実際の損失を計算するのは証拠力に欠けている。また、設備の品質問題について申請者は一定の責任を持っているので、これらの損失に対しては、仲裁裁決は支持しない。

 

三、コメント

 1、本案において、買主と売主が締結した設備売買契約は内容が包括的であり、設備の技術パラメーター、機能、据付、テスト、技術トレーニング等、設備売買契約特有の内容はいずれも定められていない。契約に定めのない内容は理論的には履行する義務はないが、売主が契約の添付書類に盛り込ませず、契約締結後提出した設備説明において言及した技術パラメーターは売主に拘束力を有している。製品説明は契約の添付書類ではないが、生産者又は売主の不特定な買主又は使用者に対する承諾とみなすものとし、売主はその承諾に対して責任を負うものとする。

2、契約違反による損失賠償について

 「契約法」第113条に基づき、当事者の一方が契約義務を履行せず、又は契約義務の履行が約定に合致しないことによって、相手方に損失をもたらした場合、損失賠償の額は違約によってもたらした損失に相当し、契約履行後獲得できる利益を含む。但し、契約に違反した側が契約締結時に予見できる、又は予見すべきであった、契約違反によって発生し得る損失を超えないものとする。「国際物品売買契約に関する国際連合条約」第74条にも同じ内容が規定されている。すなわち、当事者の一方による契約違反についての損害賠償の額は、当該契約違反により相手方が被った損失(得るはずであった利益の喪失を含む。)に等しい額とする。そのような損害賠償の額は、契約違反を行った当事者が契約の締結時に知り、又は知っているべきであった事実及び事情に照らし、当該当事者が契約違反から生じ得る結果として契約の締結時に予見し、又は予見すべきであった損失の額を超えることができない。

 実務において問題となるのは間接損失の算出である。本案における間接損失665万人民元はプロジェクトの実行性分析書により算出されたが、多く予見できない要素が存在していたことから、それを賠償の根拠としてはならない。実際に発生、算出した根拠のある直接損失を主として賠償するのが原則である。間接損失の算出は比較的難しいと考えられるので、紛争を回避するためには、間接損失の有無や、その具体的な項目、算出方法などを出来る限り事前に約定しておくことが必要である。

 

以 上

※本稿は、当事務所でアドバイザー契約をしている董弁護士の事務所で発行されている記事を一部加筆修正したものです。