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競業制限に関する労使間の規約は明確化すべき

1、事実経緯

 A氏は、某電力設備会社(以下、B社という)との間に2012年2月23日から3年間の期限付き労働契約を締結し、勤務内容は営業担当、B社の社内規則及び労働生産規律を労働契約の付属書類とすることを約束した。A氏は、B社に働きながら、2012年10月12日、C社を設立し株主として90%出資した。C社の経営範囲はB社と同様に、電気機械及びその他の機械設備、電子製品などの販売とする。

 2013年6月22日、B社は、A氏に対してA氏によるC社設立はB社の社内規則に厳重に違反したため、A氏との労働契約解除の通告書を渡した。A氏はB社の解除理由を認めないが、労働契約解除に同意した。

 2013年9月7日、B社は所在地の労働仲裁委員会にA氏に対する競業制限及び守秘義務の違約責任を申し入れたが、期限切れで受理されなかった。同年9月21日、B社はA氏と販売費用、借金などの事項に関して精算したが、残件で対立したため、B社は裁判所に提訴した。

2、判決

 法廷上、B社は、A氏はB社の営業マンとして、B社の多くの営業情報を掌握しながらC社を設立し、B社と同類の製品を販売した行為が守秘義務と競業禁止義務に厳重に違反したため、社内規則に基づきA氏と解約する権利を有し、かつ労働契約法によって違約責任を追及し、計10万元の損害賠償(A氏の得た利益による)を請求した。

 一方、A氏は、自分が他人とC社を共同設立したのは、単なる出資の株主であり、経営に関わらないため、法律の禁止行為に当たらず、B社はC社の内実を知りながら、自分と労働契約を解除した後も、C社に製品を納めたし、B社が何の損害を受けたこともないため、B社の訴求を却下するよう裁判所に求めた。

 裁判所は、本案の焦点は、A氏が競業禁止義務及び守秘義務に違反したか否かにあると認め、本案において、B社がA氏と交わした労働契約または守秘協議に競業禁止条項が盛り込まれていない。労働契約に添付する「社内規則及び労働生産規律」では、B社との同類製品の生産あるいは同業の兼職を禁止すると同時に、その厳重な反則行為条項に抵触した違反者に降職、減給、解雇を自主的に処罰するかどうか判断する権利を有すると決められているが、競業禁止の地域及び期限を明確にしていない。事実上、B社もその規定に沿ってA氏のC社設立を理由にA氏と解約した。但し、労働契約及び競業禁止協議における競業禁止条項についてはあくまでも労使間で協議し、取決めなければならない。本案に関わる社内規則及び労働生産規律の制定はほとんどB社が一方的に行い、競業禁止の対象、範囲、地域などの事項については労働者各個人によって異なり、個別事案の対処のためには規則制度及び労働規律などを通じて事前に用意しておくことではなく、B社が労働者と個別協議しなくてはならない。故に、B社が労働契約に社内規則を添付する方式をもって競業禁止を決めることはA氏に拘束力を有しないと判断した。

 更に、裁判所は、双方の間で守秘義務に関して、労働契約または守秘協議の締結形式で守秘事項の範囲を明確にせず、且つB社はA氏がB社の商業秘密を侵した行為を挙証することができない事実に鑑み、B社のA氏が競業禁止義務及び守秘義務に違反したという訴求を支持しないと判決した。

3、コメント

①社内規則に競業禁止内容を決めたことは雇用者の一方的な行為である。実務上、おおよそ労働者が入社前に社内規則は雇用者が既に制定しており、労働者は社内規則に対して大抵黙認または概括的な同意を表し、さもなければ、労働関係を成立させることができない。本案の判決では、社内規則における競業禁止の関連規定が労働者個人願望及び個体差異性を表せるどうかが如何に重要であること、社内規則に定まったことを理由に、雇用者と同等な地位にない労働者に安易に競業禁止の違約責任を負わせてはならないことが示された。

 

②平社員は会社高級管理職との競業禁止義務が異なる。会社法により、高級管理職の競業禁止の義務はその資産管理者及び代理人とする忠実義務と善良な管理人者の職責に由来している。平社員の第二職業行為または所謂兼職行為はその本職の業務に影響せず、本職の会社利益を損なわない場合、法律上特に禁止していない。本案のA氏はB社の営業担当者、一般の労働者に当たり、B社と競業禁止を約束していないため、法定または約束した競業禁止義務を受けない。

 

③労使間の競業禁止の約束は具体的に明確にすべき。競業禁止制度は企業の商業秘密及び競争優位性を守ると同時に、労働者の就業、さらには、生存に関わっているので、合理的な競業禁止は三つの要素を具備しなくてはならない。一つ目は商業秘密を守るために、即ち競業禁止の利益を守る必要がある。二つ目は対象、範囲及び責任の合理性、即ち社員の業務と職務は雇用者の商業秘密との関連性がある。三つ目は労働者の就業を制限する業務分野、地域制限、補償方式及び違約責任などの合理性を有する。

 本案のB社の社内規則には労働者の競業禁止義務を決めているが、競業禁止の地域と期間を明確にしていないため、上述の競業禁止の三つ目の要素を満たさない。B社は社内規則に基づいてA氏が労働規律に違反したことを理由にA氏と解約した一方、裁判所はB社の訴求を支持し、A氏に対する「同じ事由で二重に処分する」ことが公平性に欠けると判断したと言わざるを得ない。

以 上

※本稿は、当事務所でアドバイザー契約をしている董弁護士の事務所で発行されている記事を一部加筆修正したものです。