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新型コロナウイルス疫病の影響下における不可抗力の構成と商取引リスクヘッジについて

 目下、中国における多くの企業は、新型コロナウイルス疫病の影響で生産再稼働を遅らせ、契約通りに履行できない恐れのある状況に直面しており、どのようにして契約のリスクを軽減できるか?その対応策を如何に講じるべきかについて、次のように述べさせて頂きます。

 

一、不可抗力とは何ですか?

 我が国の「民法総則」第百八十条の規定によると、不可抗力とは予見できず、避けられず、かつ克服できない客観的な状況をいう。

 

二、不可抗力の免責範囲

 我が国の《民法総則》の第百八十条の規定では、不可抗力で民事義務を履行できない場合、民事責任を負わない。法律には別途の規定があれば、その規定に従う。「契約法」第百十七条も「不可抗力で契約を履行できない場合、不可抗力の影響により、一部または全部責任を免除するが、法律に別途規定がある場合を除く。」と定められている。「国連国際貨物販売契約条約」第79条にも該当規定がある。

1、不可抗力免除の責任は違約責任に限る。不可抗力は違約責任の法定免責条件として、現代、各国の法律の通例である。

2、不可抗力の法律結果は当然にすべての違約責任を免除するものではない。不可抗力の影響度合に応じてそれぞれ処理する。不可抗力はすでに契約債務者の履行を不可能にした場合、双方の当事者の契約を解除し、債務者の違約責任を免除する。もし、不可抗力が契約債務者に部分的な履行しかできない場合、契約内容を変更し、違約側の一部の違約責任を免除する。不可抗力は債務者の履行に一時的に困難をもたらした場合、債務者に履行の遅延を要求することができるが、遅滞履行の違約責任は免除される。

3、不可抗力を被った一方の当事者が通知義務の履行を怠り、相手方に損失を与えた場合、依然として違約責任を負うべきである。中国の契約法では、不可抗力を被った一方の当事者は不可抗力の事実を直ちに相手に通知し、不可抗力に関する関連機構の有効な証明を提供すべきと規定している。

 

三、新型コロナウイルス疫病は不可抗力に属するか?

1、新型コロナウイルス疫病が大規模に爆発したことによって、政府部門が都市封鎖、交通管制、休暇延長など行政行為を実施する結果を齎した。これらの行政行為は予見不可であり、また、医学界には絶対的にウイルスの伝染を阻止する有効な方法がなく、人類にとって予見できず、避けられず、かつ克服できない事件に属し、法律で定められた「不可抗力」の状況に適合する。

 また、現在、新型コロナウイルス疫病は、WHOによって「公共安全事件」と認定され、自然的に不可抗力の範囲に属している。

2、新型コロナウイルス疫病は不可抗力ではあるが、疫病発生の時点は協議成立の前後で、具体的なケースにおける新型コロナウイルス疫病が不可抗力に当たるか否かの認定にとって重要である。契約締結時にすでに新型コロナウイルス疫病の発生の恐れがあると予見された、または新型コロナウイルス疫病の発生後に契約を締結した場合、新型コロナウイルス疫病はその契約に対して「不可抗力」の事件を構成していない。新型コロナウイルス疫病の発生が予見できる時点の判断については、具体的なケースに照らし、具体的に分析する必要がある。また、「契約法」第117条は、当事者が履行遅延後に不可抗力が発生した場合、責任を免れることができないと明確に規定している。つまり、当事者は新型コロナウイルス疫病の発生前にすでに履行が遅れていた場合、「不可抗力」事件を理由に責任免除を要求してはならず、契約通りに違約責任を負わなければならない。

 

四、新型コロナウイルス疫病の発生は、国内及び渉外を含む各種契約の履行に潜在的な影響を与える。企業の契約履行リスクを低減し、不必要な損失を減少させるために、以下の通り留意すべきである。

1、企業は、早急に履行中及び履行しようとする契約を整理し、契約の履行が新型コロナウイルス疫病の影響を受け、例えば、契約の約束通りに納品、竣工、或いは時間通りに支払義務を履行できるかどうかを判断すべきである。

2、企業は、新型コロナウイルス疫病の影響を受けて、契約の約束通りに義務を履行できない場合、速やかに契約書の相手方に書留書面または電子メール(もし契約書に通知時間と方式に対して約束がある場合、契約通りに実行する。)を送信し、新型コロナウイルス疫病を「不可抗力」事件として構成し、疫病によって、企業が契約通りに履行できない状況を明確に説明し、「不可抗力」の状況によって契約を変更し、例えば履行の延期、または義務の一部履行を提案し、かつ、関連政府部門が春節休暇を延長、または企業の仕事再開を遅延する行政指令を証明書として添付する必要がある。

3、企業は、新型コロナウイルス疫病の影響を受けて、すでに契約義務を完全に履行できない、あるいは遅延、または契約義務を一部履行しても契約目的を実現できない場合、直接契約の相手方に書留書面で契約解除通知書を出してもよい。その通知書に、今回の疫病によって、企業は契約通りに履行できなくなった状況を詳細に説明し、関連証明を添付し、「契約法」の関連規定に従って契約を解除する旨を付け加える。相手方に異議がある場合、企業は弁護士の専門意見を求め、さらに裁判所または仲裁機構に契約解除の効力を確認するように要求することができる。

4、「不可抗力」は法定免責条項に属しており、当事者は、契約に不可抗力条項を取り入れず、または不可抗力を免責事由として排除すると約束しても、条件に該当する場合は、直接に法律規定を援用し、不可抗力の免責を主張することに影響しない。

5、企業は、国際貿易に関わる場合、不可抗力の事実性証明をできるだけ早く申請、入手する。不可抗力事実性証明は商事証明分野における事実性証明行為に当たり、中国国際貿易促進委員会と授権をする分、支部は申請者の申し込みに応じて、不可抗力に関する事実を証明し、発行後の当事者は契約を不履行、完全不履行、または遅延履行する責任の一部または全部を免除することができる。

 中国国際貿易促進委員会によって発行された不可抗力に関する事実性証明は世界200カ国以上と地域の政府、税関、商会及び企業の認可を得ており、域外で強い執行力を持っている。

 

五、契約を結ばず、注文書だけの対応

 一部の中小企業は国際取引契約がなく、注文書だけがある。注文書の中には法律適用、紛争解決、契約解釈、不可抗力などの条項が存在しない。

 新型コロナウイルス疫病の撲滅がまだ見えない状況下では、企業は、直ちに海外取引先に契約の履行の進度と現実的な困難を知らせ、双方にできるだけ早く後続の手配をして、双方の可能な損失を引き下げる。海外取引先の心配によって商取引関係が失われないよう積極的に相応の保険を保有し、防疫に関する自己義務を増加させ、また海外取引先の懸念を解消し、双方の貿易関係を安定させる。

 

重要法規解説

 

「新型コロナウイルスの肺炎感染状況の予防・抑制のために納税サービスの最適化に関する国家税務総局の通知」

 

 2020年1月30日、国家税務総局は中央政府の新型コロナウイルスの肺炎感染状況の予防・抑制のための政策決定・配置を断固として徹底させるため、「新型コロナウイルスの肺炎感染状況の予防・抑制のために納税サービスの最適化に関する通知」(以下、「通知」という)を公布、実施する。ここに「通知」の要点を以下の通り取りまとめしてみます。

 

一、疫病予防とコントロールの各項目の要求を厳格に実行する。各地の税務機関は地方党委員会政府の政務サービスセンターなどの窓口単位に対する具体的な要求を厳格に遵守し、本地区の税金納付サービス場所の「疫病状況予防のコントロール業務方案」を制定しなければならない。

 

二、疫病状況の予防とコントロールの必要によって申告納税期限を延長する。月ごとに申告する納税者、源泉徴収義務者に対して、全国範囲で2020年2月の法定申告納税期限を2月24日まで延長し、湖北などの疫病が深刻な地区は状況に応じて適宜延長できる。具体的な期日は省税務局が確定し、税務総局に届け出する。納税者、源泉徴収義務者は疫病の影響を受けて、2020年2月納税申告期限が延長された後、なお、困難である場合は、法によりさらなる延期を申請することができる。同時に、各地の税務機関は、事前に相応の措置を講じて、納税申告期限の延長後、納税者による税金コントロール設備の正常な使用と、増値税領収書の正常な発行を確保しなければならない。

 

三、積極的に「非接触式」の納税サービスを開発する。各地税務機関は「できるだけネットで行われる」という原則に従い、ネット上の税金徴収事項を全面的に整理し、納税者、納付者に取扱方法と関連プロセスを提示し、電子税務局、携帯APP、セルフサービス端末などのルートを通じて税金業務を処理するよう積極的に誘導し、95%以上の企業納税者、納付者がネットで申告できるように注力しなければならない。納税者に対して「オンラインでの申告、郵便での配送」またはセルフサービス端末で行う方式で領収書を受け取り、発行することを強く進める。税金納付サービス窓口で業務を行う必要がある場合、税務機関は、自ら予約サービスを通じて、納税者、納税者のために、徴収期間の後期にサービスを提供するなど、あらゆる手を尽くして、疫病の伝播リスクを低減しなければならない。

 

四、各地税務機関は適切な方法で納税期限の調整などの状況を納税者、納付者に伝えなければならない。

 

主要法令

法  律  名  称

施行日

1

国家税務総局の「新型コロナウイルスの肺炎感染状況の予防・抑制のため納税サービスの最適化に関する通知」(『重要法規解説』をご参照下さい)

2020/01/30

2

国務院の「自由貿易試験区における関連行政法規の暫定調整実施に関する通知」

2020/01/15

3

最高裁の「民事訴訟手順繁簡仕分改革試行実施弁法」の配布に関する通知

2020/01/16

4

商務部、国家発展と改革委員会、教育部の「サービスアウトソーシングモデルチェンジアップの加速化推進に関する指導意見」

2020/01/01

5

財政部、国家税務総局の「国外所得関連個人所得税政策に関する公告」

2020/01/17

6

国務院弁公庁の「2020年春節休暇期間の延長に関する通知」

2020/01/26

7

国家市場監督管理総局の「食品生産許可管理弁法」

2020/03/01