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仲裁協議における仲裁地の取り決めについて

 中国企業と外国企業との取引増によって、経済紛争が増発し、その紛争解決メカニズムにおいて、商事仲裁はその迅速性と秘密保持性によって多くの内外企業によって受け入れられる。

 

 中国国際経済貿易仲裁委員会(「CIETAC」、以下、「中国貿仲」という)が発表した「中国国際商事仲裁年度報告(2019-2020)」によると、2019年の全国仲裁事件の紛争金額は前年比9.3%増。そのうち、昨年の「中国貿仲」の受理した仲裁事件数は3333件で、前年比12.5%増。事件の紛争総額は約1220.4億元で、前年比20%増。渉外事件の紛争金額は約381億元、事件の当事者は米、加、伯、 墨、独、英など72の国と地域に及んで、紛争の類型から見ると、IT、建築工事、知財、娯楽産業などの多岐にわたり、受理件数、対象金額、当事者の国別数はいずれも国際的に有名な仲裁機関と肩を並べられ、その受理事件の紛争金額は全国253の仲裁機関の総量の7分の1を占めている。

 現在、中国には255の仲裁機関があり、有名な国内仲裁機関は、「中国貿仲」 (CIETAC)、北京仲裁委員会 (BAC/BIAC)、上海国際仲裁センター(SHIAC)、深セン国際仲裁院 (SCIA)、広州仲裁委員会 (GZAC)などがあり、それらの仲裁機構は国内外事件を受理している。

 当事者が仲裁機関に提出する仲裁協議は、仲裁を申請する旨の表示、仲裁事項、及び仲裁委員会の選定の内容を必須なものとして、一つでも欠けている場合、仲裁協議は無効になる。ここに仲裁地に関する実務上の問題を以下の通りに提起したい。

 

 最高裁の司法解釈によれば、仲裁合意は、ある地域の仲裁機関によって仲裁される旨を約定し、かつ、その地域には仲裁機関が一つしかない場合、当該仲裁機関は、約定された仲裁機関とみなす。その地域には二つ以上の仲裁機関がある場合、当事者は合意によりその中の一つの仲裁機関を選んで仲裁を付託することができる。当事者は仲裁機関の選択について合意に達成できない場合には、仲裁合意は無効となる。従って、二つ以上の仲裁機関がある地域(例えば、北京には北京仲裁委員会、「中国貿仲」、中国海事仲裁委員会の3つがある)については、どの仲裁機関に付託するかを明確にしなければならない。さもなければ、仲裁条項が無効になるリスクに直面する

 但し、双方が合意で「関連紛争について浙江省嘉興市仲裁委員会に仲裁を付託すべき」旨を約定していたが、実際には「浙江省仲裁委員会」だけではなく、「嘉興市仲裁委員会」も存在していない。また、仲裁委員会は行政区域によって設立されておらず、互いに従属関係もない。上記の「嘉興市仲裁委員会」の呼び方が正確さに欠け、「嘉興仲裁委員会」と称すべき。浙江省嘉興市には仲裁機関が一つしかないので、最高裁の司法解釈に基づいて、確定される仲裁機関が存在しているため、双方が仲裁協議の効力について紛争が発生した場合、その協議は通常有効な仲裁協議として認定されるものとする。

 注意すべきことは、「中国貿仲」の本部は北京にあるが、上海分会、華南分会、西南分会など13の分会がその傘下に置かれている。当事者がその契約紛争について「中国貿仲」に仲裁を付託することを望むなら、その仲裁協議において、仲裁地が上海、深セン、重慶またはその他の特定の地点のいずれを明確に示す方法でしなければならない。「中国貿仲」の《仲裁規則》に基づいて、もし、当事者が仲裁協議に仲裁地を約定していない場合には、「中国貿仲」は自主的に仲裁地を北京、上海、深センあるいは重慶に指定し、または事件の具体的な状況に応じて、他の地点で事件を受理することを決定することもできる。

 ある契約では、「紛争はA市の仲裁機関またはB市の仲裁機関に仲裁を付託することができる」という旨を約束されている。法律の規定により、二つ以上の仲裁機関を約定した場合には、当事者は、協議の上その中の一つの仲裁機関を選んで仲裁を付託することができるが、合意に達することができない場合には、仲裁合意が無効になると、最終的に訴訟の方式を採用して紛争を解決するしかない。 

 

 上述のように、企業が契約書の紛争解決条項について交渉し、検討してきた具体的な仲裁地を契約書に正しく明記しているか否かが仲裁の成否に影響を及ぼすことになるだろう。

 

重要法規解説

 

更なる対外開放拡大に対する裁判所よる業務保障に関する最高裁の指導意見

 

 2010年9月25日、最高裁は「更なる対外開放拡大に対する裁判所よる業務保障に関する指導意見」(以下、意見という)を公布した。「意見」は六つの部分の十七条によって構成され、ここにその重点を以下の通りに概説します。

一、背景

 今年、中国は、突如として現れたコロナウイルスをきっかけに、グローバル経済の一方主義、保護主義の台頭、国内外の政治、経済環境の変化によってもたされた試練に立たされており、最高裁は、「意見」を公布し、渉外商事海事、行政、知的財産権、国境を越えた破産、金融、執行などの裁判の重点分野、及び国際司法交流協力の深化などの重点業務に対して具体的な要求を提出し、外国裁判所の民商事の判決を承認・執行するための手続き規則と裁判基準など多くの措置を講じ、全面的に利便な司法業務と公正かつ効率的な司法保障によって司法の側面から国の政策を支援し、国内外の投資者の中国市場に対する信頼を勝ち取ろうという意図が読める。

二、主な内容

1、中外当事者に平等保護の原則を堅持し、法律によって保護される市場環境を提供する。当事者の意思を十分に尊重し、当事者が法による管轄裁判所を選択し、法律を適用し、紛争解決方式を選択する権利を保障する。法により司法の管轄権を行使し、中国の司法主権を守りながら、渉外司法の管轄紛争問題を適切に解決する。
  

2、渉外法律適用規則体系を完備し、国際条約、国際慣例及び外国法律を正確に適用し、裁判の国際公信力を高め、グローバル商事法律規則の形成と改善を推進するとともに、国境を越えた貿易、投資、海運などの分野及び新型コロナウイルスに関わる渉外商事海事事件を善処し、産業サプライチェーンの安定、外資、対外貿易の健全な発展を力強く保障する。渉外裁判とスマート裁判所との融合を推進し、域外当事者の訴訟サービスプラットフォームを建設し、人工知能、5 Gなどの先端技術を渉外裁判の分野で応用し、国際商事紛争の多元化解決メカニズムを充実させ、「一帯一路」国際商事法律サービスモデル区の建設を推進し、国内外の当事者に公正かつ効率的で便利な法的サービスを提供する。


3、知的財産権裁判の分野では、知的財産権への司法保護に力を入れ、知的財産権侵害の懲罰的賠償制度を厳格に実施し、渉外知的財産権訴訟制度を充実させ、国内外の当事者に公平競争の市場環境を提供し、国境を越えた裁判の執行分野で、三種類の越境事件、すなわち越境破産、越境金融と越境執行事件を善処し、越境紛争裁判メカニズムを完備し、専門的な裁判能力を向上させる。


4、二国または多国間の司法協力条約の締結に積極的に参加し、司法協力事件を速やかに処理し、各国間の民商事判決の相互承認と執行を推進する。国際組織との協力を強化し、グローバル化体制の改革と国際法規則の制定に積極的に参加する。各国と地域の最高裁との情報化、司法改革などの分野での交流と協力を強化する。

 

主要法令

法  律  名  称

施行日

1

最高裁の「更なる対外開放拡大に対する裁判所よる業務保障に関する指導意見」『重要法規解説』をご参照下さい)

2020/09/25

2

国務院弁公庁の「商事制度改革の深化、企業の負担の更なる軽減、企業の活力の激励に関する通知」

2020/09/01

3

最高裁の「商業秘密侵害民事事件審理の法律適用若干問題に関する規定」

2020/09/12

4

最高裁の「法による知的財産権侵害行為懲罰力の強化に関する意見」

2020/09/14

5

応急管理部の「生産経営単位従業員の安全生産検挙処理規定」

2020/09/16

6

国務院弁公庁の「新業態新モデルによる新型消費の加速発展の誘導に関する意見」

2020/09/16

7

最高検、公安部の「商業秘密侵害刑事事件立案追訴基準の改定に関する決定」

2020/09/17

8

外交部、国家移民管理局の「三種類有効な居留許可を有する外国人入国の許可に関する公告」

2020/09/23